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ポルノグラフィティ10thアルバム『RHINOCEROS』感想

 さまざまな年代、薄明りのイメージ。

 全体的に夕暮れ(「wataridori」「Stand Alone」「バベルの風」)から日暮れ(「ANGRY BIRD」「Ohhh!!! HANABI」)や明け方(「ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜」「AGAIN」)のイメージが強く、朝方や昼日中は薄い。ただ明け方も闇夜のイメージは比較的薄くてどん底の暗さではない。明るい太陽の下で活動していないけれど、決して全体が暗いわけではなく、特に夕暮れ系の曲を筆頭に反骨精神がミックスされている曲も多くて、どこか若さのようなものを感じる。

 作詞作曲について詩曲が一致しているのは10曲で岡野昭仁さん*1は3曲、新藤晴一さん*2は7曲、不一致で3曲、そしてインストが1曲。合同作詞の「俺たちのセレブレーション」やインスト曲の「螺旋」を含めて個人的にはやや晴一寄りに仕上がっていると思う。また、英詩と英語のタイトルが比較的多いアルバムでもある。

 以下、収録曲の感想。

 

 

1.ANGRY BIRD(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:篤志, Porno Graffitti)

 硬質なロック。「ラック」や「煙」の直系にあたる曲で、曲調も歌詞も攻撃的ではあるけど、全編を通して散りばめられた英詩がそれを適度に乾かしてくれていて、だからこそ日本語だけの三パート、特にギターソロ前の〈正常と言い切る~何度も吐き出す〉がより印象に残る。怒りと反骨精神はあるけれど憎しみはない。激しさはないけれど確かな怒りはある。若い。無軌道ではないけれど腹の底に怒りと野心を秘めたハイティーンが浮かび上がる。

 音楽面:〈思い出せない〉に混じる切実さ/頭一つ抜けて乾いた〈正常と言い切る~何度も吐き出す〉のパート/〈ヤツは誰?〉後の急降下の重低音/呑み込むようなギターソロ。

暖かい血を送り出している鼓動の中に
ぞっとするほどの冷徹な血が混じる

ANGRY BIRD

ANGRY BIRD

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2.オー!リバル(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, Porno Graffitti)

 シングル曲。畳みかける言葉のリズムと華やかな音の洪水が有無を言わさず高揚させる。意味深長な美しい描写と具体的な五感の描写が絶妙に均衡している。血沸き肉躍る。傑作。〈肌を焦がすような〉〈紅い火〉〈熱で感じ合う〉という熱さの描写が〈踏み鳴らすリズム〉〈足音〉〈手拍子〉〈嵐呼ぶロンド〉という舞踏のイメージと抜群に噛み合っていて、もう言葉はいらない二人の関係性が如実に表現されている。ラテン系の曲を外からの血筋とするなら、この楽曲によってそれが本当の意味でポルノの持ち味になったともいえる。「サウダージ」から輸入されたラテン系統を完全に根付かせた一つの結晶。

 音楽面:流れるような〈ささやかな題名をつけて〉/〈オー!リバル オー!リバル〉の緩急/語り掛けるイントロのギター/囃し立てるクラップ音。

ギターが刻むのは踊り子のステップ

オー!リバル

オー!リバル

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3.Ohhh!!! HANABI(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:シライシ紗トリ, Porno Graffitti)

 前曲を受けてのセルフパロディっぽいタイトル。ファンの間でも賛否が分かれているみたいだけど、個人的にはわりと好きだったりする。ノスタルジックな風景の描写には胸がざわめくし、アップテンポな曲は軽快で楽しい。ただ、ここでも書いたけどこの系統の曲が主流になったら困るというのも事実なわけで、評価がちょっと難しい。ライブで演奏してほしいかと言われると……けど音源で聴くとそれなりに……けどこの系統が増えていいのかと問われると……うーん……。

 音楽面:全体的に楽しそうな歌声/天まで上りそうな最後から二番目の〈ヒュルル〉/要所で囃し立てる高速の打音(ドラム?*3)/青春の匂いがする爽やかなギターソロ。

赤 青 金 銀 夏の恋人は艶やかだね

Ohhh!!! HANABI

Ohhh!!! HANABI

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4.wataridori(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, Porno Graffitti)

 昭仁特有の海を渡る旅の歌。時間の流れは壮大でSF味があるけど、かなりミクロな出来事に終始していている。おれの持病でもあるけど、〈キミ〉はファンとして解釈してみたくなる。そうなると、〈渡り鳥〉は各地を飛び回ってライブをしているポルノグラフィティ自身をさしていることになるし、〈ボクの見える世界が変わる〉はステージの非日常ととることができる。ただ、どちらにしても〈たとえ何度生まれ変わっても/何度もまたキミに巡り合う〉はちょっと重たい。

 音楽面:力強い宣言の〈ボクらの空は繋がっているんだ〉/最後の〈キミと巡り合った〉の伸ばした発音の「り」/前半でずっと鳴っている優し気なギター(?)/アウトロの穏やかなストリングス。

夕陽に浮かぶ鳥の群れたち
彼方に霞む蜃気楼

wataridori

wataridori

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5.Hey Mama(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:Porno Graffitti)

 箸休め。晴一ボーカルソング第二弾。微笑ましいようなちょっと怖いような不思議な歌。ほぼ全編英詩なんだけど、ラストの一文でひっくり返される。どのくらいの歳の設定なんだろう……。ちなみに「神VS神」音源では日本語も披露されているのが興味深い。そちらもぜひ。

 音楽面:〈along well〉の発音/〈“When we met for the first time,〉終わりの「ジャン」。

一晩中愛し合いなよ

Hey Mama

Hey Mama

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6.俺たちのセレブレーション(作詞:岡野昭仁, 新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮, Porno Graffitti)

 シングル曲。ここでも書いたけど、もっと高く評価されてほしい楽曲の一つ。アニバーサリーの曲らしく軽快で楽しく明るくて躁的だけど、決して羽目を外しすぎてはいない。昭仁の歌い方も抑揚が効いていて刻むような滑舌も健在、そしてなにより本当に楽しそうだ。歌詞は苦悩のインディーズ時代から始まり、デビュー後の狂騒と歓喜、そしてベテランの領域に踏み込むまでの年月を4分16秒の曲に圧縮している。サビの〈アポロ〉は挿入された位置によって意味が変わるのは見事な出来。代表曲に挙げろとまでは言わない*4けど、もうちょっとだけ評価してくれてもいいと思う。

 音楽面:切なさが混じる〈私は誰?〉の語尾/ラスト一文の刻む滑舌/ずっと後ろで鳴っている賑やかな打音(ドラム?)/〈見渡せば〉から〈生き物に〉まで鳴っているつむじ風のようなギター(?)

今日の月は格別に綺麗でしょう
瞳に涙 涙 涙を流せと言ってる

 

 

7.Stand Alone(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti)

 シンプルな反抗心。思春期の少年が大声で歌いながら夕暮れの田舎道を自転車で全力疾走している映像が浮かぶ。反抗心がかなりソフトな形で表現されていて、曲調も相まってどこか爽やかさがある。そういう意味ではとても楽しい楽曲で気軽に味わうべき楽曲と思う。〈小さな奇跡〉は自己改革のことなのかもしれない。

 音楽面:〈拗らせオーバーロード〉の絶妙なリズム感/ヴォルテージが上がっていくラストの英詩/〈風穴くらいあくだろう〉から始まる爽快なギター/アウトロへ向けていったん急加速するドラム。

ペダルを漕ぐ速度に景色はついてこれずに
いらないものを過去へと置いてく

Stand Alone

Stand Alone

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8.ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti)

 シングル曲。散文的な歌詞で落ち着いた曲調が穏やかな幸せを感じさせる。ポルノの楽曲の中でもけっこう珍しいタイプのラブソングで、妙齢の女性の(やや幼なげな)恋心を描いている。時系列が前後して回想を挟んでいるとストレートに解釈して幸せな物語と理解しても良いし、〈“ワン・ウーマン・ショー”〉〈静かに消えたのは 甘い幻〉をネガティブに解釈すれば、その幼さゆえに実らなかった恋ともとれる。

 音楽面:寒風のようなサビのコーラス/〈大人なのにね〉の独言感/〈バカみたいね〉で鳴っている優しげなフリューゲルホーン(?)/〈笑っちゃうほど〉で左側で踊っているギター。

聞かせてよ あの時の あの瞬間に
その胸に浮かんだ答えは何?

 

 

9.ソーシャル ESCAPE(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:根岸孝旨, Porno Graffitti)

 SNS、おそらくX(当時のTwitter)をモデルにした楽曲で時事的な色合いがかなり強い。〈だからどんな未来だって分かち合おう〉はポジティブに捉えることもできるけど、直後に〈いつまでも逃げてばかりじゃいられない〉とあるから、まあ皮肉と受け取るのが正道かな。

 音楽面:〈タイムライン〉〈追われる〉〈リアル〉の「ラ」行の巻き舌/ダウナーな〈繋がっていて〉の語尾/間奏前の打楽器(パーカッション?)の加速感/〈always〉で一瞬だけ早口で捲し立てるギター。

風に消える自分らしさを彩ったマイウェイ

ソーシャル ESCAPE

ソーシャル ESCAPE

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10.バベルの風(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, Porno Graffitti)

 やや葛藤の色合いが強い曲。情報源がWikipediaで申し訳ないけど、バベルには混乱の意味があるらしくて、そうなると〈同じ場所で何度もストップモーション〉〈take it back, don't forget〉と併せて中年の危機的と原点回帰志向を感じ取れる。ただ、〈越えて越えて越えて行くんだ 甘い幻想のエピローグ〉には前向きな意思があるし、清々しい曲調も相まってネガティブな印象はない。〈空に放つ希望の歌が 掠れ足元へ落ちてく/長い夢の中にいるのに やたらリアルが迫って来る〉を加味すると昭仁特有のフィクション係数の低い内省と決意の歌詞ともとれる。

 音楽面:サラリと流す〈慟哭の日々に〉/感情の篭った〈胸を掻きむしる旅人よ〉/全編で鳴っている打楽器(ドラム?)/走り出すギターソロ。

越えて越えて越えて行くんだ 甘い幻想のエピローグ

バベルの風

バベルの風

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11.AGAIN(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:立崎優介, 田中ユウスケ, Porno Graffitti)

 痛烈な後悔に心が捩じ切られる。夜更け近くのまだ薄暗い国道を彷徨う寒さは痛切で、おそらく過去の自分であろう〈君〉に想いを馳せる描写は秀逸。〈地図〉は幼き日に無邪気に願った夢を思わせるけれど、そんなものは現実に対応しているわけはなく、そもそももう読めなくなってしまった。もう思い出せもしない。大人になる哀しさともう戻れない辛さ。風景描写は写実的で、なのに心情描写は比喩を織り交ぜているのが素晴らしい。

 音楽面:切実な〈そこに何があったか 思い出せなくて〉/左右から囁かれるラストの〈AGAIN〉/叫ぶギターソロ/〈国道沿い 見慣れたコンビニ〉で鳴っている寂しい弦楽器(シタール?)。

昇る太陽が静寂しじまを焼き尽くす前に
行かなきゃ 影を慕いて歩いては どこまで

AGAIN

AGAIN

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12.Good luck to you(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:江口亮, Porno Graffitti)

 楽しい歌。突然現るパーリーピーポー。浮かれてきってチャラチャラしているけど背中を叩いて励ましてくれそうな感じは良い。前向きで人生楽しんでいそうなのだから深いことは考えずに楽しく聴きたい。ある意味「AGAIN」とは真逆。ラップパートは晴一が担当していて、ちょっとぼかした歌い方をしていて気づきにくいけどここにもSNSが顔をのぞかせている。

 音楽面:兄貴分な〈行っとけ!行っとけ!〉/〈そう叫びながら〉の爽やかなロングトーン/ずっと鳴っている賑やかな弦楽器(ギター?ベース?)/ラストの〈浮かれ気分で 飛び出してみせろ〉後のテンションを上げるドラム。

ゼロじゃない そう叫びながら

Good luck to you

Good luck to you

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13.螺旋(作曲:新藤晴一 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti)

 インスト曲。ギターが気持ちいい。おれは音楽知識がカケラもないからどう表現したらいいかわからないけど、すごく好き。唄うギター。ロック。ロックだけど落ち着いていて聴きやすい。音楽感性が死んでいるおれだけど、ポルノのインスト曲は大好きだから定期的に作ってほしい。

 音楽面:出端の自信に満ちたギター/0:50付近から加わる異国感のあるアコーディオン(?)

螺旋

螺旋

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14.ミステーロ(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:立崎優介, 田中ユウスケ, 近藤隆史, Porno Graffitti)

 異国情緒。系統でいえば「アゲハ蝶」や「ジョバイロ」に近くて、異国感のある世界観の絵画を楽しむのが重畳。たまらなく美しい文字列に、歌詞カードを読んでいるだけでうっとりしてしまう。意味が分かるようでわからないけど、ちゃんとわかる。というより、わかるものがちゃんと挿入されている。単語の羅列と意味の通るテキストのバランスが絶妙。同じくタイアップ候補だった「オー! リバル」とは対照的に乾いた冷たさの印象深い。

 音楽面:オノマトペと意味のある言葉の境目にある〈バイバイバイ〉/向こうから返ってくる〈I miss you〉/再会のギターソロ/異国情緒を仕上げるアウトロのバイオリン。

黒いベール 巡礼の列 欠けた月と砂漠の都

ミステーロ

ミステーロ

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 一応毎回書いておくけど、楽器については全くの無知(ついこの間までBassは大太鼓のことだと思っていた)だから頓珍漢なことを書いていたらごめんなさい。一応ブックレットの使用楽器のクレジットくらいは読んだけど知識と理解は別の問題だから……。ただ、だいたいどの辺のことを言っているのかは分かってもらえると思う。

 比較的年代のイメージが幅広いのも本アルバムの特徴だと思う。少年(「Stand Alone」)、青年(「ANGRY BIRD」)、大人(「ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜」)と、おれの勝手なイメージで決めた曲を含むにしても三属性もある。ただ、前段でも書いたけど、全体で観ると反骨精神を含む曲が多くて若さや幼さを感じ取る人も多いと思う。また種の純粋さを肯定する傾向もあって、どこか優しさのようなものを感じる。

*1:以下敬称略。

*2:以下敬称略。

*3:ブックレットのクレジットにドラムがないからドラムじゃないと思うけどほかにそういう楽器が思いつかない。

*4:おれも挙げるか微妙なラインだから他人にとやかくはいえない。