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ポルノグラフィティ11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』感想

 夜と言葉のリズム。

 暗い……というのはちょっと違うけど、アルバム全体から陽の光を感じないというか、どこか夜を思い起こさせる曲が多い。パッと明るい曲が「君の愛読書がケルアックだった件」と「スパイス」くらいだからというのもあるけど、やっぱり「Fade away」の存在は大きいんじゃないかなと思う。ただ、ネガティブな曲が多いかと言われるとそういうわけでもなくて、なんだったら「THE DAY」「真白な灰になるまで、燃やし尽くせ」「Montage」「キング&クイーン」と激励の歌もそれなりに多いし、悲恋失恋の歌も少ない。全体的に夕暮れから深夜の連想させる。

 シングル曲/アルバム曲どちらも詩曲が一致しているパターンが多い。一致していないのは「Working men blues」と「Montage」だけで、奇しくも詩曲の組み合わせが逆になっている。数としては新藤晴一さん*1岡野昭仁さん*2も作詞作曲がそれぞれ七曲と完全に均衡している。ちなみに前作『RHINOCEROS』に引き続き英詩/英語のタイトルが多いアルバムでもある。

 以下、収録曲の感想。

 

 

1.THE DAY(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:江口亮,Porno Graffitti )

 シングル曲。全体を貫く気骨が印象的。世の中には本当にどうしようもないことはたくさんあるけど、決して何もできないわけではない。ちっぽけな個人の力を過大評価するでも過小評価するでもないし、綺麗ごとは言わないけど悲嘆に暮れるわけでもない。そんなバランス感覚が勇気をくれる。〈非常階段で爪を噛む〉が〈非常階段で爪を研ぐ〉に変わっていく状況の対比が素晴らしい。ここでも書いたけど、「A New Day」との定冠詞の違いにも注目したい。THE DAY二つとないこの日A New Dayありふれた新たな一日

 音楽面:〈THE DAY HAS COME〉のやや掠れかかったロングトーン/〈このろくでもない世界にはあるんだよ〉の異常な聴き取りやすさ/後ろでずっと鳴り続いているランナーの駆け足みたいなドラム/満を持して謡いだすギターソロ。

明日を占うカード 風がまき上げた意味なら知っているだろう

THE DAY

THE DAY

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2.Working men blues(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮, Porno Graffitti)

 二人の立場を考えればどこか自嘲的ではあるけど、おれたちから見ればスーパースターでしかない二人だって広い視点で見れば小さな存在なのかもしれないし、もしかしたらそういう感覚で作られた歌詞なのかもしれない。「時代は小さなことの積み重ねで実現していく」という主題は、前曲「THE DAY」を受けた歌詞のようでもある。

 音楽面:〈連なってゆけ〉の「つら」の巻き舌/〈そりゃもちろん君さ〉の疲れが滲み出た優し気な声/イントロのジリジリした起動音のようなやつ/アウトロで奥で鳴っている弦楽器(コントラバス?)の高音。

感謝の言葉など必要としていないんだ お前は

Working men blues

Working men blues

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3.君の愛読書がケルアックだった件(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:立崎優介,田中ユウスケ, Porno Graffitti)

 明るく賑やかで楽しい一曲。歌詞には時間の流れが存在するけど、事態が進展するわけではなくその一歩手前……いや三歩手前で踏みとどまっているもどかしさと青臭さがこそばゆい。各所で「ちょっとストーカーっぽい」と言われていて、たしかにそうかもしれないけど、描写的にティーンっぽいから許されているところはあると思う。

 音楽面:〈窓の外ばっか見るわけが〉の抜け感/〈Dont't think,feel〉後の重なる〈Your wish〉/キラキラ感を演出するシャラララという音(ウィンドチャイム?)/イントロのどこか楽し気なギター。

今着てる服が 窮屈みたい Overflow

Working men blues

Working men blues

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4.I believe(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:立崎優介,田中ユウスケ, Porno Graffitti)

 歌詞は親から子への愛情と期待という印象。詩情という意味では昭仁の作詞の中でも五指に入る出来だと思う。文字として読んでも綺麗な言葉が並んでいるし、冒頭の〈涙〉から〈レンズ〉〈海〉〈月〉〈嵐〉など船旅を連想させる言葉がスムーズに世界観に導いてくれるのも見事。ただ、内容自体はかなりオーソドックスだし卓越した表現があるわけもなくて、その辺がファンからもイマイチ評価され切れていない理由なのかなと思う。

 音楽面:〈ささやかな目覚めの喜び〉の「の」の溜め感/優しい声色の〈心配ないよ〉/明るい未来を演出するシャラララという音(ウィンドチャイム?)/「未来」を連想させるアウトロのギター。

仄かな灯りよ どこかへ誘え
心に響く 永遠のささやき 下弦の月

I believe

I believe

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5.LiAR(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:tasuku, Porno Graffitti)

 シングル曲。ここでも書いたけどポルノグラフィティの「嘘」を代表する曲。「人工と自然」の対称的な比喩表現によって晴一のテーマの一つである相互不理解が描かれている。散りばめられたモチーフは美しく意味深で、直接的な表現は少ないのに言いたいことが伝わる。経験に裏打ちされた晴一の作詞技能が炸裂する。曲調もアップテンポ(ラテン?)で高揚感がある。ちなみに初披露とは歌詞とアレンジが若干異なっている。個人的にはライブ版のほうが日本語の濃度が高くて好きだけど、〈Liar Liar 金の花粉をまき散らし〉の箇所は音源版のほうが好きだったりと一粒で二度おいしい。

 音楽面:〈シルクを爪先で裂いたような〉での「ハッ、ハッ、ハッ」という吐息/〈素敵な夢が見れたの〉の儚げな「な」/イントロの左から右に駆けていく音/サビで鳴っている舞踏を煽るようなギター。

この身に残す狂おしい傷痕 赤い血

LiAR

LiAR

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6.Fade away(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮, Porno Graffitti)

 ドン底ネガティブ岡野昭仁心情吐露ソングの極北。比喩を交えた情景描写という意味では無二の魅力がある。ただひたすら虚しく、辛く、哀しい。抉るような孤独が頭を揺さぶる。灯も少なくなった深夜の大都会、土砂降りの雨の中をただ当てもなく歩き続ける男をイメージしてしまうのはおれが男だからかもしれない。語尾や一人称はどちらかというと女性を連想させる。地の底に堕とされて踠く気力すら奪われるのにサビに向かって徐々にヴォルテージが上がっていくような曲の構成にテンションが矛盾脱衣を起こす。オールタイムベスト級に好きな一曲。

 音楽面:〈あなたも心を麻痺させたの?〉に重なる心の声のようなコーラス/最後の〈Fade away〉の「デェ」と「アウェ」の繋ぎ目/慟哭のようなギターソロ/〈またうずき始めたの〉の後のドラム。

海面を突き破って 獲物を捕らえる鮫のように
わたしを喰い千切る

Fade away

Fade away

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7.クリスマスのHide&Seek(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮, Porno Graffitti)

 歌詞は物悲しくて後ろ向きなのに曲は軽快、という「Human Being」「やがて哀しきロックンロール」などに連なる曲。昭仁の詞らしく恋人(未満の関係?)の〈あなた〉と比べて空虚な自分を嘆く歌だけど、〈ずっと一緒 距離をとったままの僕を〉や〈偽らず歌うことができない僕は〉を加味すると〈あなた〉はポルノのファンのことだと読めなくもない。クリスマスソングということで「Hard Days, Holy Night」と比較したくなるけど、あちらに比べて侘しさが強く、年末という「終わり」の寂しさを感じさせる。

 音楽面:溜息のような〈今年も終わりで〉の語尾/〈イルミネイトして〉の「ミ」/イントロ終わりからなり始めるシンプルなギター/ずっと後ろで鳴っている軽快な音。

クリスマスって優しくって 外側をイルミネイトして
空っぽをボヤかしてくれるの

クリスマスのHide&Seek

クリスマスのHide&Seek

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8.MICROWAVE(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:トオミヨウ, Porno Graffitti)

 続けざまに放たれる短い言葉の羅列は情景描写であり遠き日の記憶であり心情描写でもある。前半と後半で羅列される言葉は変わるけど、たぶん対比をとっていて、そういう意味ではかなり官能的な曲でもあると思う。特に〈触れ合いのようなもの〉が素晴らしくて、行為にすら満たなかった未熟な営みだったことがわかり、そこから大よその年代を連想できる。ここでも書いたけど、脳みそをガラクタ置き場や金庫ではなく冷蔵庫に例えたのはたぶん後にも先にも晴一だけ。独り身特有のガサツな冷蔵庫とそれを開く時間帯の連想は断片的な記憶を思い出してしまうシチュエーションとしても完璧。

 音楽面:フラッシュバックを思わせるサビ部分の声色の使い分け/冷蔵庫の駆動音を模した「ウィンウィンウィン」/言葉の羅列のところで鳴っている低い音/異文化の土地で唐突に現れた顔見知りのようなギターソロ。

甘いメール エロい動画 笑顔 アンダーヘア 触れ合いのようなもの

MICROWAVE

MICROWAVE

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9.夜間飛行(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti)

 ここに書いた通り、晴一の詞の中でも随一の美麗な言葉によって描かれる閉塞した関係性は多くのポルノファンに高く評価されている。密会が夜であること、危険な行為であること、そして孤独であることが掛かったタイトルは歌詞にも曲調にもこれ以上ないほど適している。ちなみに「夜間飛行」という香水があることをつい先日知ったのだけど、最後に〈私好みじゃないパフューム〉とあるくらいだからそこにも掛かっているのだろう。〈外さないままの腕時計〉の箇所はネガティブとポジティブで描写の解釈が分かれているけど、やっぱり「腕時計を外してくれない」関係という意味なんだと思う。

 音楽面:〈それくらい 許してよ〉の「Cry」のような〈くらい〉/最後に繰り返す〈FLY〉のクライマックス感/右側から聴こえ続ける静かなギター/場面を転換するように挿入されるシャラララという音(ウィンドチャイム?)。

美しい瞳が青く陰って
君が言ったのは「月が綺麗」
美しい言葉ね 的外れでも

夜間飛行

夜間飛行

 

 

10.真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮, Porno Graffitti)

 シングル曲。いやいや、こんな大変そうな曲作っちゃって大丈夫なの……歌うのは自分なんだよ……目が回るほどのアップテンポで突き付けられる言葉の嵐を苦も無く歌い上げているのは流石の一言。スーパー滑舌ヒューマンヴォーカリスト岡野昭仁の面目躍如。やや壮大な言葉が使われているけど描かれている内容は比較的オーソドックスな鼓舞でそういう意味では「ワンモアタイム」に近い。ちなみにMVは「LiAR」と演奏時間を合わせるためにタメとアウトロが追加されているけど、これがライブアレンジっぽくてカッコイイ。

 音楽面:全体の異常な聴き取りやすさ/〈キミの心 空になるまで〉のカ行の心地よさ/冒頭一秒のドラム/名バイプレイヤーのギターソロ。

三秒後の世界だってわかるはずもない 予言者じゃない

 

 

11.170828-29(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:tasuku, Porno Graffitti)

 20170828-29日。製作の経緯を含めてけっこう面白い曲で、北の将軍様の愚行の影響で歌詞の一部が書き換えられたらしい。あんなもの全部まとめて〈知らない惑星まで飛んで行って刺さって/永久に眠ればいい〉なんて考えちゃうよなあ……。〈俺の傘など華奢〉〈丸腰ガンマン 気取ってみたところで〉〈街が焼かれたら しょうもない〉と単純明快な平和ソングに留まらないバランス感覚も良い。もちろん、争乱状態に身を置いていないからそう思えるだけなのかもしれないけど。なんとなくディック「たそがれの朝食」を思い出した。

 音楽面:ギターソロ前の〈ピースピース〉の切実さ/〈星に祈るみたいに〉の遠くから通信されているような声色/後ろでずっと鳴っているドラム/混沌と争乱のギターソロ。

星に祈るみたいに ミサイルを見上げては
願い叶いますように

170828-29

170828-29

 

 

12.Montage(作詞:岡野昭仁 作曲:新藤晴一 編曲:篤志, Porno Graffitti)

 シングル曲。聴いていると元気が出てくる。歌詞の内容もさることながら、たぶんボーカルに併せてなり続けているドラムのような音(電子音楽?)が効果的なんだと思う。人の多面性、もしくは個性は経年で変化しえることをモンタージュとして表現しているのだけど、個人的には挫折してしまった元天才少年を思い浮かべる。どこか包むような優しさを感じる歌でもある。

 音楽面:まったく揺ら揺らしていない〈ゆらゆら〉/さっと切れる〈モンタージュ〉/冒頭の何かが飛んでくるような音/俯いていた顔を挙げて雄たけびをあげるようなギターソロ。

笑顔を写した 懐かしいフォトグラフ
瞼の裏に残る 鮮やかなプリズム

Montage

Montage

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13.スパイス(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, Porno Graffitti)

 平穏な日常を唄った曲はほかにも「休日」や「黄昏ロマンス」「ラビュー・ラビュー」なんかがあるけど、その辺の曲に比べてやや評価が低い。その辺の曲に比べて本当に平穏で何も起きないからかもしれない。たしかにこの曲に限らず日常系の歌はポルノの主流になられると困るけどアルバム2-3枚に一曲くらいは欲しくなる。

 音楽面:〈君は照れ臭そうに笑った〉の愛おしそうな〈君は〉/噛みしめるような〈こんな平凡な〉/歌詞の内容を先行して物語る明るいイントロ/右側から聴こえる相槌のようなギター。

愛しき日常

スパイス

スパイス

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14.キング&クイーン(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:立崎優介,近藤隆史,田中ユウスケ, Porno Graffitti)

 シングル曲。ファンの間でも賛否両論分かれているのは応援ソングとしてもあまりにも直球過ぎるからだろう。〈輪になって分かち合おうよ〉というフレーズが象徴するように全体を通して明るく前向きに励ましてくれる。アルバムの感想で書くことではないかもしれないけど、この曲はライブで聴いて好きになった。生活を営むときの一般市民岡野昭仁やスタジオで音楽を作っている時の人間岡野昭仁ではなく、ステージという非日常空間でのポルノグラフィティボーカル岡野昭仁として考えや想いが詰め込まれた曲だと思う。

 音楽面:〈壊さぬように大切に〉の優しい声色/爽やかな笑顔を幻視してしまう〈笑うしかない〉/〈思っていたよりもちっぽけな自分でも〉から寄り添い続けるギター/〈キング&クイーン〉直後のクラップ

ぶつかってみて 打ち拉がれ 空を仰ぐしかなけりゃ 笑うしかない

キング&クイーン

キング&クイーン

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 一応毎回書いておくけど、楽器については全くの無知(ギターとベースの区別がつかない)だから頓珍漢なことを書いていたらごめんなさい。一応ブックレットの使用楽器のクレジットくらいは読んだけど肝心の耳と脳がねえ……。ただ、だいたいどの辺のことを言っているのかは分かってもらえると思う。

 昭仁の二面性がわかりやすく出ているアルバムでもある。「Fade away」と「キング&クイーン」は正負、闇と光みたいな表現をされがちだけど、本質と理想の二面でもあると思う。普段の生活では「Fade away」のような後ろ向きで暗いことを考えているけど、ライブでは「キング&クイーン」のように前向きに鼓舞するような言葉をかけてくれる。根っこは「Fade away」だけど「キング&クイーン」のほうが正しいと思っているんじゃないかな……というのは邪推が過ぎるか。

 対して晴一は言葉のリズムが弾んでいる。「MICROWAVE」での短い言葉の羅列や「170828-29」の古めかしい言葉を敢えて使っているところなど、散文的な美しさよりも口から発せられる言葉としてのリズムをより重視しているような印象がある。

 前段にも書いた通り、アルバム全体にどこか暗さがあるけれど、もちろんそれ一辺倒になるわけではなく明るい曲や踊りだしたくなる曲もある。言葉のリズムとしては「LiAR」「MICROWAVE」「真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ」「Montage」のスッとキレるリズムが印象的。寝静まった大都会……なんて妙に大仰なことを思い描いてしまうのはその辺が理由なのかもしれない。

 

 

*1:以下敬称略。

*2:以下敬称略。