電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

2025-01-01から1年間の記事一覧

今年読んだ本の簡単な感想(2025)

去年に引き続き記録代わりにつけた簡単な感想を載せていく。ちょっとした成果なんでなんとなく眺めてもらえると嬉しいです。 一覧 海外SF小説 フィリップ・K・ディック 『アルベマス』 『ライズ民間警察機構』 『怒りの神』 『ジャック・イジドアの告白』 『…

フィリップ・K・ディック『高い城の男』[最も完成されたディックの文芸作品]

第二次世界大戦を連合国側ではなく枢軸国側が勝利した世界、というオーソドックスな歴史改変SF。複数キャラクターの視点で物語が動く群像劇で特定のキャラクターを主人公に据えてはいない。人種年齢性別立場の異なるキャラクターがそれぞれの事情に基づいて…

フィリップ・K・ディック『ウォー・ゲーム』[やや手軽な雰囲気の短篇集]

収録作の大半は既読。訳者解説によると本書は北宋社刊行『顔のない博物館』の一部改訂版で「パパそっくり」「フォスター、おまえ死んでいるところだぞ」「消耗品」の三作が削除されて新たに「ウォー・ゲーム」「フヌールとの戦い」「爬行動物」の三作を新た…

最近見た存在しない映画(2025年11月)

THE REVO(2026年、日本、監督:今井八朔、99分) 静けさの中の力強さ。同監督の『解放区』の続編だけど、前作を観ていないとストーリーを理解できなというわけではなく、あくまで世界観を共有しているという程度のものだから前作未視聴の人も安心して見てほ…

最近見た映画(2025年11月)

サユリ(2024年、日本、監督:白石晃士、108分) ババアが超強え。 前半と後半でがらりと変わる。前半は幸せだった家族が引っ越した先に怪異によって一人ずつ犠牲になっていき日常が狂わせていくという王道のホラーだったものが、生存者が二人になってからの…

フランツ・カフカ『城』[不条理、権力、メロドラマ、原罪]

光文社古典新訳文庫で読破。未完の長篇小説ということで読むのを躊躇していたけど、集英社ポケットマスターピースの選集が思っていたよりも面白かったし、「永遠に目的地にたどり着けないで周辺をうろうろする」という設定が魅力的だったから手を出してみた。…

フィリップ・K・ディック『人間狩り』[ゾッとするオチと皮肉のアイディア]

収録作はすべて既読。 論創社から出されているダーク・ファンタジー・コレクションに同名の短篇集(以下、論創社版)があるが、編訳者が同じで時系列的には本書の方が先に刊行されている。つまり論創社版は本書がベースとなっている。違いは紙幅の都合で「ゴ…

フィリップ・K・ディック『ペイチェック』[分厚いだけにバラエティ豊かな短篇集]

全575ページとディックの短篇集では最もページ数の多くてそれだけにバラエティ豊かな短編を収録してある。ディックの娯楽SFとしては他の追随を許さない「ペイチェック」のような明るい後味の作品もあれば「たそがれの朝食」のような時事性が極めて強い暗澹と…

最近見た存在しない映画(2025年10月)

黎明(2000年、日本、監督:武谷統子、123分) スペースコロニー型長距離星間飛行体キルクスを舞台にした長大でミクロな世界のSF作品。構成としてはキルクスの仁志と凛の会話→キルクス前史→仁志たちの時代→再び仁志と凛の会話という構成になっていて、真ん中…

最近見た映画(2025年10月)

タイムカット(2024年、アメリカ、監督:ハナー・マクファーソン、91分) ダイヤルアップ接続の音が懐かしい。そっか、2003年のパソコン事情ってこんな感じだったか……。一応生きていた時代がタイムトラベルの対象になっていることがなんだか感慨深かった。 …

ポルノグラフィティFANCLUBツアー「FANCLUB UNDERWORLD 6」の簡単な感想

福岡公演に参加してきました。 当日は隣のドームで野球の試合があったこともありめっちゃ混んでいた。 人生初のライブハウス。想像していたよりもずっと近い。席が存在しないライブ自体が初めてでどのくらいのものか分からなかったから、整理番号的にはもっ…

フィリップ・K・ディック『あなたをつくります』[なんかすごいの読んだぞ]

なんだかすごい小説だった。 商売がうまくいかず崖っぷちにいる男たちが乾坤一擲の新商品を開発する。それはシミュラクラと呼ばれる模造人間で、大量の資料を読み込ませることで過去の偉人を精密に再現することができる。その開発の気苦労とか人間関係のいざ…

ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』[苦痛と暴力と傲慢な神]

エリスンの第三短篇集(日本オリジナル)。二作目の『死の鳥』が実質的なベスト短編集だっただけに、どうしてもやや見劣りするところはあるけど、それでもエリスンはエリスン。やっぱり素晴らしい。ただ、前二作よりもイマイチ度合いが高い作品もいくつかあ…

最近見た存在しない映画(2025年9月)

宇宙の果てには売店がある(2025年、日本、監督:山本淳、121分) ショートムービー集……というより映像の断片集といった感じの映画。極めて短い映像の詰め合わせで、次々と休む間もなく生活感のあるSF世界を提供してくれるというわんこそば的シネマエクスペ…

最近見た映画(2025年9月)

ビバリーヒルズ・コップ(1984年、アメリカ、監督:マーティン・ブレスト、105分) 気楽で楽しいコメディアクション映画。破天荒な警官が悪友の敵討ちのために巨悪に挑むという単純明快な物語の筋に警察機構の硬直性とか社会的な信頼性とかを絡めて、最終的…

ポルノグラフィティ2ndアルバム『foo?』感想

シンプルに行こうぜ。 若い。全体的に恋愛色の強い曲が多いからそう感じるのかもしれないけど、それ以上に簡潔明瞭さを武器に世の中を戦い抜いていこう、という主張が、それこそ皮肉が歌われている「オレ、天使」にさえそういう面があるところが、いい意味で…

フィリップ・K・ディック『シミュラクラ〔新訳版〕』[すべてにせもの]

山盛りキャラクターが出てきて、同時進行にいろいろなことが起きて、事態が破綻することで収束し、ポストアポカリプス的な世界が待ち受けるであろうことを暗示して物語は幕を閉じる。 題名がそのままディックの代名詞である、というのは『サンリオSF文庫総解…

スティルインラブ育成シナリオ[絶賛も酷評もしっくりこない傑作シナリオ]

贔屓にしている洋菓子店があるんだ。そこにはいろいろな洋菓子が並んでいるのだけど、特にチョコレートが絶品でね。美味なのはもちろんのこと何より食べ終わったあとに「いやあ、いいもの食べたし明日も頑張ろう!」って活力が湧いてくるタイプの、美味い上…

最近見た存在しない映画(2025年8月)

沼地の君たち(2036年、アメリカ、監督:アンジェラ・パグリッシ、100分) 蛙、鰐、蛇、亀。沼地に潜む緑色の生き物たち。ザアザアと雨が降り、たくさんの生命が生き生きと沼地を跳ねたり泳いだりしている。少年たちの格好の遊び場。大人たちには内緒で秘密…

最近見た映画(2025年8月)

乱歩地獄(2005年、日本、監督:竹内スグル/実相寺昭雄/佐藤寿保/カネコ アツシ、134分) 江戸川乱歩の短篇小説「火星の運河」「鏡地獄」「芋虫」「蟲」を原作にしたアンソロジー映画。それぞれ別の人が監督していて世界観に直接的なつながりがあるわけでは…

フィリップ・K・ディック『ジャック・イジドアの告白』[不発だった終末とそれからの人生の始まり]

ディックの主流文学作品。旧題として『戦争が終り、世界の終りが始まった』があるけれど、原題は『Confessions of Crap Artist』で、率直に訳せば『クズ芸術家の告白』作中の表現でいえば『ある戯けもんの告白』ということになる。個人的には『戦争が終り、…

フィリップ・K・ディック『暗闇のスキャナー』[好きなような嫌いなような傑作]

後期の傑作。反(≒親)ドラッグ小説、主観的アイデンティティ崩壊、半私小説(≒主流文学志向)、破滅による終幕、ささやかな救い、と多くの要素が作品の完成度を高める方向に寄与しているという、この時期の長篇にしてはほとんど奇跡のような作品。もっとも…

フィリップ・K・ディック『未来医師』[ディックの書いた『火星のプリンセス』]

車の事故で意識を失った医師のパーソンは、気が付いたら未来世界に飛ばされていた。そこは人種の区別が存在しない管理社会で出生は社会に制御されており、医療行為はそれ自体が違法となっていた……。 と、前半はタイトルそのものな内容(まあ、パーソンは未来…

最近見た存在しない映画(2025年7月)

あなたにニュースをお伝えします(2000年、アメリカ、監督:アンヌ・ナガタ、108分) こんにちは。ニュースの時間です。本日は国民の皆様に重要なお知らせがございます。 かなり変わった映画。テレビで放映されるニュースの映像のみで構成されていて、映像的…

最近見た映画(2025年7月)

怪獣ヤロウ!(2025年、日本、監督:八木順一朗、80分) 春とヒコーキのぐんぴぃさんが主演ということで視聴。分類としてはご当地映画になるらしく、ほとんどの場面が劇中の舞台でもある関市で撮影されているらしい。 ご当地映画を作るよう指示された市役所…

フィリップ・K・ディック『宇宙の操り人形』[エンタメな長篇と侵略の短篇三作]

やや変わった構成をしている一冊。長篇(もしくは長めの中篇)である表題作「宇宙の操り人形」と短篇三作を収録していて、形式的には中短編集ということになるのかな。表題作一本では分量が足りないから短編を付け加えた形になっている。「奇妙なエデン」の…

平野清美編訳『チェコSF短編小説集』[とおい国からのSF]

『チェコSF短編小説集』 チェコ産のSF小説オリジナルアンソロジー第一弾。書店で一目惚れして購入。チェコの人名に馴染みがないせいでキャラクターを把握するのが少し難しかったけど、それはそれで新鮮ではあった。やや古めの作品が多く収録さているだけにSF…

最近見た存在しない映画(2025年6月)

春風にようこそ(2029年、日本、監督:登尾福之、102分) 伊豆半島を舞台に貧乏民宿を経営する四人の兄弟姉妹の奮闘をコメディタッチで描いた古き良き映画……というノスタルジックな作風にあえて作られているらしい。作中年代は昭和末期から平成初期だけど、…

最近見た映画(2025年6月)

ブレア・ウィッチ・プロジェクト(1999年、アメリカ、監督:ダニエル・マイリック/エドゥアルド・サンチェス、81分) モキュメンタリーホラーの草分け的存在、という前評判だけで視聴。行方不明になった学生たちが遺したテープという設定なだけに、終始一貫…

フィリップ・K・ディック『時は乱れて』[主流文学の匂いとディックSFと]

ディック初期の傑作。 平和に暮らしていた一家がふとした拍子に世界の綻びを見つけて、それを手繰り寄せていくと実は自分たちが暮らしている世界が作られた箱庭だったことが判明する。なぜなんでどうしてどうやってを知るために箱庭を脱出した先で知る世界の…