シンプルに行こうぜ。
若い。全体的に恋愛色の強い曲が多いからそう感じるのかもしれないけど、それ以上に簡潔明瞭さを武器に世の中を戦い抜いていこう、という主張が、それこそ皮肉が歌われている「オレ、天使」にさえそういう面があるところが、いい意味で若さを感じさせる。言葉のチョイスも全体的に若く、崩した若者っぽい表現が目立つ。技巧的というよりも情熱と勢いを感じさせる。そして、だからこそ「サウダージ」の技巧と「大人っぽさ」が際立つ。
夕暮れ前の時間帯、友達と楽しく遊んでいたあのころを思い出す。
作詞作曲について、同一人物が詩曲を書いているのが5曲でそのうちアキヒトこと岡野昭仁さん*1が2曲、ハルイチこと新藤晴一さん*2が3曲。作曲全体では昭仁が2曲、晴一が3曲、シラタマことTama(現:白玉雅己)さんが4曲、ak.hommaこと本間昭光さんが3曲。作詞では昭仁が4曲、晴一が8曲となっている。
以下、収録曲の感想。
1.INNERVISIONS(作詞:アキヒト 作曲:ak.homma 編曲:ak.homma)
若さが溢れだす刹那主義。それは一夜の恋のことのようでもあり、いま目の前で行われている音楽ライブのことのようでもある。〈網の目を掻い潜るような抜け道を探していく〉という悪賢さにはどこか否定的でありながらも〈頭をフル回転 偽りキャンペーン それも恋の正論なのです〉と小手先の恋愛テクニックには肯定的なところが面白い。大きな視点でズルはだめだけど、目の前にある一瞬の恋の為ならどんな手でもつかっていこうぜ……〈目の前にあるLife〉をたしかに生きている人々への賛歌なのだと思う。
音楽面:スッピンになる〈ノーメイク〉/ギターソロを手招きするような〈higher〉/頭の中で反響しているようなギターソロ/イントロとアウトロの左右から揺さぶってくる電子音。
例えば今君のその手に願い事たった一つだけ
もしも叶えられる力を持つなら一体何を手に入れたい?
膨れ上がる欲望 迷える展望 君は運命を犠牲にして
強烈に誇示できるビジョンや主張するものはあると言えますか?
2.グァバジュース(作詞:ハルイチ 作曲:シラタマ 編曲:ak.homma)
甘い飲み物、苦い失恋。コーヒーショップでの別れ話→ビルとバスについての回想→コーヒーショップでの別れ話に戻ってくるという構成の曲。ビルとバスの逸話は〈ボク〉の性格とこれまでの人生を間接的に語っていている。不器用でノロくて世間の流れに置いて行かれている情けない男。それは〈スマートに恋を楽しんでい〉て自分の表情を完璧にコントロールして上手く立ち回ることができる〈君〉とは対照的だ。悲喜劇的な歌詞だけどコミカルさが強いのは、〈ボク〉がその対照性を理解しているからだと思う。
音楽面:どこか皮肉っぽい〈いいねぇ〉/一瞬巻き舌が入る〈ノロノロ…〉/最初の〈君にすがるのもいいねぇ〉後の時間の切れ目を表しているような楽しげな間奏/〈プライドはおきざりで 君にすが〉りついて必死に捲し立てているようなアウトロのギター。
きっと君って 純情を右手に
そして笑顔うかべて 引き金をひくんだね
3.サウダージ "D" tour style(作詞:ハルイチ 作曲:ak.homma 編曲:ak.homma)
シングル曲。名曲。傑作。初期の突然変異種。アルバムバージョンで収録されていて五秒ほどイントロが足されている。シングルバージョンよりも低音が印象的でより重厚になっている。晴一本人が言っている通り*3この時期の曲の中では特に「大人」な歌詞。抒情という面ではアルバムでも群を抜いている。ここでも書いたけど比喩や擬人化が細かく散りばめられていて、失恋の悲しさと辛さ、そして過去に置いてきた感情と決別する強さを一連の流れとして完璧に描いている。一貫して一人称視点になっていてさらに句読点が打たれていることから書簡を連想させる。決して相手に届くことはない独り言のような手紙。幸せな日々、強がりの笑顔、涙、未練、時の経過による相互理解と相互不理解、決別と決意。〈愛が消えていくのを、夕陽に例えてみたりして〉〈夜空を焦がして、私は生きたわ恋心と〉と、時間の経過と慕情の行方が逆になっているの素晴らしい。夕日が沈んで愛は消えていったはずなのに、実際には夜でこそ情愛が燃えていた(≒〈夜空を焦がし〉た)。手紙を書く時間としても、過去を見つめて意を決する時間としても、夜こそふさわしい。
音楽面:〈そこにたしかに残るサウダージ〉の徐々に強まる語尾/全体的に早口言葉に陥る手前で踏みとどまる抜群のリズム感/イントロのエキゾチックな低音(ウッドベース?)/序盤の切迫するストリングス。
あなたのそばでは、永遠を確かに感じたから
夜空を焦がして、私は生きたわ恋心と
4.愛なき・・・(作詞:アキヒト 作曲:アキヒト 編曲:ak.homma)
昭仁特有の情欲の歌。どこか気だるげな曲調とネガティブな想いを載せた歌詞を力強くけれど要所では粘り気や哀しさをもって歌い上げている。切実な愛情と閉塞する生きづらさを描く写実的な歌詞が五感に迫る。〈滲んだ窓〉〈汗ばむ声〉〈雨水〉〈吐いた息が白い霧になって〉〈熱〉と湿度の高い表現が歌詞全体に生活感を付与している。
音楽面:〈感情さえ〉の粘ついた「え」/哀願するような〈祈らせてください〉/〈君は砂〉あたりで左から聴こえる打楽器の音/アウトロ終わりの余韻を残しながら左右に揺れるギター。
キミは砂 ボクは雨水
交わるたび 澄んだ愛に変わる
5.オレ、天使(作詞:ハルイチ 作曲:シラタマ 編曲:ak.homma)
忘れがたい印象を残すタイトル。天使の視点で人間の営みを皮肉っている。愛も音楽も人の願いもたいしたことじゃない。この世界は荒廃しきっている。それを知ったうえで独りで歩み続けろ……という本編中の内容はアウトロの天使の台詞でさらに皮肉られる。反骨的な天使像、という意味では星新一「天使考」をちょっと思い出させる。イントロとアウトロに挿入された語りの穏やかな諦念と失望が癖になる。
音楽面:〈愚か者がはびこる〉の「はびこる」の絶妙な滑舌/乾いた〈叩き潰す〉とバックの歓声/ずっと左で鳴っているミュンミュンって音/長台詞のようなベースソロ。
願いは叶うと誰が決めた?笑わせんな!
神様だって そんなこと全然言ってなかった
6.サボテン(作詞:ハルイチ 作曲:シラタマ 編曲:ak.homma)
インディーズ時代から大切にされてきた曲で、詩的な表現で彩られたストレートな失恋の歌。窓辺に置かれたサボテンを中心に恋人との幸福な思い出とそれを失っていく描いている。ここでも書いたけど雨≒水の表現が印象的。ほぼ一貫して降り続ける雨は〈心深く濡れてしまうだろ〉や〈溢れるくらい水をあげてる〉と水を介した心情表現に一役買っている。去っていく恋人を追いかけることもできずに部屋の中で一人っきり考えに考えて、ようやく自分の気持ちを見つけることができ、恋人を追いかける決意を固めて空を見上げる。それが手遅れだったかどうかは本楽曲中では描かれない。
音楽面:〈サボテン〉の引っ張る「ん」/どこか希望のある〈小さな花を咲かそう〉/冒頭の「ドン」という音/たっぷり設けられたアウトロでフェイクとギターとベースが並走する箇所。
雨のにおい 冷たい風 不機嫌な雲
窓際の小さなサボテン
7.Name is man 〜君の味方〜(作詞:ハルイチ 作曲:ハルイチ 編曲:ak.homma)
牧歌的な曲調でなんでもない日常を描いた歌詞。昔気質な男の良さと悪さをギュッと詰め込んでいる。〈俺は男だから 大好きだなんて言えない〉の直後に〈ずっとずっと いっしょにいよう ずっとずっと〉が置かれているのは、それが〈大好き〉を照れないように言い換えた表現だからなのだろう。
音楽面:〈俺にも〉のネットリした「れぇ」/〈現れるものなのさ〉のどこか子供っぽい「さあ」/ずっと右側から聴こえる優しいベースの音/ギターソロ最後のちょっとダウナーな「でぇえん」。
溶けるくらい甘いセリフが頭をよぎった
それでも背中で語ろう
言葉よりも確かに
8.デッサン#2 春光(作詞:ハルイチ 作曲:ハルイチ 編曲:ak.homma)
ここでも書いたけど限りなくノンフィクションに近い曲で晴一が亡父を想って詩曲を作っている。最初の段落の〈静かに ひとつはじけた〉で逝去を比喩によって描写し、その後の段落で直前の臨終の場面を描いたうえで、比喩を交えて視点者の心情を描きつつ、最後にそこが病室だったことを明示する。世界は明るくて、暖かくて、穏やかで、それなのに自分は大切な人を失った。そういう個人的な感情としての不条理こそが大人が受け入れるべき哀しさなのかもしれない。
音楽面:〈抱きしめてよ〉の切なくトーンダウンする「よ」/最後の一段落の地の文感/ギターソロ前の出迎えるストリングス/思い出を語っているようなギターソロ。
茜さす午後の病室
春もう すぐそこに
瀬戸内の海は今日も
きらきらと光っている
9.ミュージック・アワー Ver.164(作詞:ハルイチ 作曲:ak.homma 編曲:ak.homma)
シングル曲。夏にブチ上がる。アルバムバージョンで収録されていて冒頭にラジオのコールサインが追加されている。圧倒的に高揚させる楽曲で約四分半でテンションが爆アガリする。圧巻の夏ソング。真冬に聴いても即座にハッピーサマー。架空のラジオに送られてきた一通のお便りを中心に夏の恋模様が描かれている。小難しいこと考えずに聴いてとにかく楽しくなってほしい。あまりにもポカリスエットすぎる楽曲。だからこそ、ポンと挿入された下記の優しい歌詞が心に残る。
音楽面:〈シンプルな〉の「ん」/最後の〈決して離さなければ〉のファルセット/サビで左側で鳴っているパカパカいっている音/サビで右側で鳴っているハイトーンみたいな音(ギター?ベース?)。
強い人にはなれそうにもない、揺れてる君でいいよ
10.空想科学少年(作詞:ハルイチ 作曲:ハルイチ 編曲:ak.homma)
SFは思春期真っ盛りの少年のための文学、という言葉があるけど本楽曲はまさにそういう歌だ。失恋の痛みと自己嫌悪から逃れるために自暴自棄、その原因が自分自身にあることから目をそむける責任転換≒酸っぱい葡萄、強がりのメッキが剥がれて出てくるのは弱々しい叫び。機械化による個性の喪失が救いになるのではと思ってしまう気持ちは痛いほど良く分かる。そういう人も多いはず。この曲は青春の痛みそのものであり、そこを過ぎ去ってしまったおれたちにはもう完全には理解できないものでもある。もしかしたら、だからこそストレートに楽曲を味わえているのかもしれない。もう当事者じゃないから。
音楽面:〈コンプレックス〉の小さな「ク」/〈純情を〉で混ざり合った「お」と「を」/左で鳴っているミョンミョンした音/ずっと鳴っている音(ドラム?)。
ルックスも選べれるのさ
これでコンプレックスともお別れ
みんないっしょ 同じ顔
11.Report 21(作詞:アキヒト 作曲:アキヒト 編曲:ak.homma)
カタカナが気持ち良い楽曲。田舎から出てきた人間にとって東京はほとんどSFの世界だったりするわけで、そういう感覚が如実に反映されている……かもしれない。俺たちがやるしかない、頑張っていこうぜ。とにかくやってみよう、若いんだから。そういう向こう見ずなところもあるけどしなやかな強さがいまとなっては眩しい。
音楽面:二回目の〈未来は今〉の音に紛れて消えかかった「ま」/〈mind〉の「ンド」/右側で並走する音(ベース?ギター?)/スッと切れるラスト。
強靱な脳内細胞創り出すのは 挑戦と失敗の繰り返し
わずかでも体温の上昇感じて 上等なsituation残そう
12.夜明けまえには(作詞:アキヒト 作曲:シラタマ 編曲:ak.homma)
インターネットがいまほど普及していない時代の夜はテレビ放送が終わったら本当に一人っきりになっていたはずで、そういう青年期の寂しさと気づきと希望を暖かい楽曲に載せて歌っている。エンディングにふさわしい一曲。聴いているとなんとなく幸せな気持ちになれる。
音楽面:全体的なエコー感/〈一緒に居ればいい〉の抜けていく「いい」/どこか優し気なギターソロ/フェイクと溶け合うアウトロの楽器の演奏。
今日も風は柔らかく きっと僕らに優しい
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一応毎回書いておくけど、楽器については全くの無知(打ち込みってなに??)だから頓珍漢なことを書いていたらごめんなさい。一応ブックレットの使用楽器のクレジットくらいは読んだけど知識と理解は別の問題だから……。ただ、だいたいどの辺のことを言っているのかは分かってもらえると思う。
恋愛の歌が多めに収録されている。たぶん、アルバムを聴いた多くの人が失恋歌が大多数を占めていたと感じるだろうけど、数えてみると失恋の歌は「グァバジュース」「サウダージ」「サボテン」「空想科学少年」の4曲に対して、現在進行形や成就しているなど前向きな歌は「愛なき・・・」「Name is man 〜君の味方〜」「ミュージックアワー」「夜明け前には」の4曲と、意外と均衡している。やっぱり「サウダージ」と「サボテン」の印象が強すぎるせいなのかな。あとは、「愛なき・・・」は現在進行形の恋愛の歌だけど、視点者がどこかネガティブなところがあるから正道のラブソングには聞こえないというのもありそう。ただ、失恋ソングの4曲も本当にどうしようもないまま終わるのは「空想科学少年」くらいでほかの3曲はどこか前向きな意思を示して終わる。そういう意味で、王道の失恋ソングというわけでもない……といえるかもしれない。
恋愛の歌が多いということは、描かれているキャラクターの想定年齢層が若めということでもあり、だからなのか、アルバム全体を通して聴くと友達と遊んですごしていた夕方の時間帯を思い出す。あのころは恋愛よりも友達が大切だったはずなのに。
なんだか懐かしい気持ちになれるアルバムだった。

