過ぎ去りし日々の思い出は美化されることもあれば醜化されることもある。けれど、書き出してしまえばもう変化しない。その一瞬は永遠になる。
本曲「Sheep 〜song of teenage love soldier〜」(以下、「Sheep」)は16thシングル『黄昏ロマンス』のカップリング曲で作詞作曲は岡野昭仁さん*1、4分12秒の青春の一ページだ。ポルノグラフィティ史上もっとも可愛い青春恋愛ソング。純真で、微笑ましくて、可愛らしい。あだち充先生の読み切り漫画になりそうなほどの率直な青春ラブソングで暑い夏の日に飲んだ三ツ矢サイダーみたいな味がする。爽やかで甘ったるくて、ちょっと咽喉を蹴たぐっていく。
本当に可愛らしい歌で、非の打ちどころのない十代の幸せな思い出が描かれている。青春の一頁を切り取った歌詞、という意味では同じく昭仁作詞の「Aokage」に近しいものがある。「Aokage」がなんでもない一日に終始しているのに対して、「Sheep」は時間の流れが存在する。両曲ともに聞いているとハッピーな気分になれて、ねちょねちょした気色の悪いストーカーの心情を絶妙な比喩表現で歌い上げた怪曲「見つめている」と同じ作詞者とは思えないくらいだ。
もちろん「Sheep」は歌詞を解釈するような歌じゃない。こまごまとした解説は不要。こんな文章を読むより百聞は一見に如かずで歌を聴けばすべてを直観的に理解できる。そんなことは重々承知のうえで書いていきたい。
これで何度になる?言えない言葉は「君が好き」というメジャーな響き
あいにく二人は話題が豊富で肝心なことに触れられない
タイトルにある通り〈恋の戦士〉と大げさな表現で自分を奮い立たせる少年を描いている。前段では二人の関係性を提示しつつ少年のささやかで真剣な苦悩を描き、グダグダしたそれとは対照的な実直な言葉の応答で締めくくられる。ド直球な輝かしい青春の日々はあまりに眩しすぎて、幼き日々は勘太として生き長じてはカオナシとなった哀しきバケモノのおれには異次元の世界だ。
時間の流れが存在するのは上で指摘したけど、これが二人の背景を想像させる縁となっている。なまじ友人として過ごした時間が長く、そして貴重なものだったからこそ一歩を踏み出すことを躊躇してしまう。十代中盤くらいの友達以上恋人未満みたいな関係性は学校という狭い世界では煮詰まりがちで、もう遠い昔の記憶になってしまったけど、学生にとって告白の失敗による失恋は文字通り世界の終わりだからこそシンプルな言葉を伝えることもできない。〈世界のキング〉はその裏返しだ。
「君が好き」我ながらよく言えた台詞だった
「私も」と笑ってる君を今抱きしめたい
終始一貫して楽しい音で彩られた楽曲でボーカルもどこか優しげだ。耳心地が良すぎる〈「Keep on lovin' you」〉はそこだけ何度もリピートして聞きたくなる魅力がある。曲調もアレンジも歌詞もすべてが「Sheep」がどういう曲かをこれ以上ないほどはっきりと提示してくれる。
文字通りのハッピーセットな楽曲でもしかしたら現在進行形のティーンエイジャーには胃もたれするかもしれない。そういう意味で、この歌を率直に楽しめるのは青春を過ぎてしまった人たち……かもしれない。
*1:以下敬称略
