電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た存在しない映画(2024年2月)

ザ・リーチ(1953年、アメリカ、監督:ジェフ・シャセット、70分)

 おどろおどろしい雰囲気と不条理な宇宙生物の襲来、その対策に関する人間関係のいざこざ科学技術に創意工夫、そしてもう一段のオチ……と古典的な怪獣映画。もちろん映像技術的には現代の映画には及ばないけど事態が進展するテンポや恐怖感を煽る演出などは優るとも劣らない。シンプルイズベスト。

 ちなみに『ウルトラQ』に影響を与えた作品として特撮ファンの間では有名らしい。冒頭とラストの胞子っぽい描写が印象的でこれが『寄生獣』にも影響を与えた……と書いている人もいて、まあ気持ちはわかるけどあれは地球上で発生した生物って設定だからちょっと違うんじゃないかな。映像的にもそんなに似ていないしなあ……。

 個人的には悪役(?)のオドネル将軍が好き……いや、好きというか嫌な奴だけど部下からの信望はありそうなところが絶妙で、こういう映画に出てくるステレオタイプの軍人のなかではバランスが取れている。そして、そんな人物なのに最後の最後にすべてをひっくり返す独断専行の愚を犯してしまうところが軍人の本質と矛盾しまくっていて印象深い。

《印象的なシーン》宙に浮かび上がるひる。

 

 

海鳴り(1980年、日本、監督:白瀬直、123分)

 銀行を舞台にしたサスペンス映画。警察、暴力団、主人公一行の三つ巴で物語が進むのだけど、息もつかせぬ展開に加えて軽妙洒脱な時子と古谷の会話がめちゃくちゃ楽しくて二時間があっという間だった、というのは『週刊心象』の評論の通り。殺人と窃盗の二つの事件が複雑に絡み合うミステリ要素は、もうおれには複雑すぎて一回では理解しきれなかったけど、多くのミステリファンが絶賛していたからたぶんちゃんと整合性がとれたものになっていたのだと思う。

 主演は演技もさることながら言い表しがたい存在感があって目が離せない。本作と併せて二作品にしか出演していないのがつくづく悔やまれる。俗なうわさで申し訳ないけど、結婚したとも故郷に帰ったともいわれている。変わり種では実はタイムトラベラーで自分の世界線に帰っていったというのもあるくらいだ。まあ、これだけ行方が杳として知られなければそんなSFじみた噂もたつよなあ。

 本作への感想とはちょっとズレるけど、やっぱり同監督の次回作『雨の伝説』との連続性が各所で指摘されている。特に両作共に同じように交差点に佇む猫が印象的で、「猫の交差点二部作」と評している人もいるらしい。

《印象的なシーン》「目覚まし時計をひっくり返した子猫の写真」を見つめる男。

 

 

農場を守れ!(1992年、日本、監督:木杉庄司、88分)

 1992年を代表するカルトムービー……という前情報だけで観たけど、噂に違わぬ怪作だった。明らかに低予算で小道具からはなんともいえない安っぽさが漂い、役者陣もお世辞にもレベルが高いとは言えないのに、異形の生物たちの造形も相まってアクションの迫力はすさまじい。しかもミリタリーに詳しい人々から賞賛されている辺り、農村の小道具は適当でも兵器類には大変こだわっているらしい。シンプルに纏まっていて文句なく面白いのに絶賛するのに躊躇してしまう。まさに怪作。

 原作は短編小説でストーリーはやや引き延ばされている(本編前後が追加されている)けど、上述の通り間延びしているということはなくて作品の補完に終始している。ただ、原作からかなり人数が削られているのが作品の安っぽさに繋がっていて、それはかなり残念ではあった。まあ予算の都合があったんだろうけど、もうちょっとどうにかできなかったかなあ。

 全然違うけど、なんとなく『世にも奇妙な物語』の「BLACK ROOM」を思い出した。秘密を抱えて豹変する親族、ブラックユーモアは共通しているけど、画面全体の明暗とミリタリ要素の濃度はほぼ真反対といっても過言ではない。比較してみると面白いかもしれない。

《印象的なシーン》「即刻、居間に出頭せよ」

 

 

チドと危険に遊ぼう(1999年、アメリカ、監督:ロドリック・ギャドマン、122分)

 ……うわお。すげえ。まさに奇想。文字通りの「脳力の比べあいブレインレース」が繰り広げられる映画。本題のレースもさることながら面白いのは原作の冒頭にちょっとだけ描写されたハンティングがピックアップされて本編の半分ほどを占めているのはかなりの冒険だったと思う。そして、それが好意的に評価されているのは前半を通して登場人物三人にちゃんと感情移入させ、しかもチドが相互理解不能であることを随所で匂わせるという後半にむけての助走としての役割をキッチリ果たしているからだと思う。

 レースが始まってからの色調の変化があまりにも悲しい。原作では意識の変化が地の文として表現されていたけど、本作では色調と時間の流れの変化として表現されている。個人的にはあの地の文が好きだけど、映像作品としてみるならこれが大正解だったのだいうのも十二分に理解できる。

 変種の異星SF映画という意味では『ファンタスティック・プラネット』や『不思議惑星キン・ザ・ザ』を思い出したけど、そのどちらとも違う長所と欠点がある。画面的な強さでは『ファンタスティック・プラネット』のほうが上だけど、ストーリーの強度ではこちらが上。(社会風刺を含めた)ややブラックなユーモアとしては『不思議惑星キン・ザ・ザ』が優れているけど、全体のテンポ感を含めた完成度では本作が優っている。試しに三作はしごして観てみたら自分がいまどの時代のどの場所にいる誰なのかよくわからなくなってきた。脳がぱちぱちする。

《印象的なシーン》自分の身体を追いかけるロイガー。

 

 

竜が乗った女から生まれた男(2040年、日本、監督:真崎有智夫、30分)

 漢の高祖がまがりなりにも一官職にこぎつけるまでを描いた短編アニメで正直アニメとしてのレベルはそんなに高くないけど着目点が好みで結構気に入っている作品。この時期の劉邦と蕭何の関係性の解釈がすごく良い。ちなみに「母方の姓~」と「兄ぃ」といのはあくまで俗説に過ぎないらしい。

《印象的なシーン》呂公宅で諫言する蕭何を見つめる劉季。