電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

ポルノグラフィティ10thアルバム『RHINOCEROS』感想

さまざまな年代、薄明りのイメージ。 全体的に夕暮れ(「wataridori」「Stand Alone」「バベルの風」)から日暮れ(「ANGRY BIRD」「Ohhh!!! HANABI」)や明け方(「ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜」「AGAIN」)のイメージが強く、朝方や昼日中は薄い。…

星新一『ボッコちゃん』〔ファンタジー/SF強めの初期傑作選〕

「悪魔」 金貨と氷上と悪魔。 悪魔。お手本のようなショートショート。前振り、展開、オチ(そしてツボが湖の底にし沈んでいた理由≒初期設定の原因の提示)が完璧にそろっていて、しかも簡潔。巻頭を飾るにふさわしい作品。ちなみに、福本信行『賭博堕天録カ…

陳舜臣『中国傑物伝』〔文明の擁護者、過小評価された男、バランサー、晩節を全うした者たち〕

純粋な短編小説というより評伝に近いスタイルで、春秋の范蠡から清末・民国初期の黄興までの傑物16人を採り上げている。内訳でいうと君主は四人(漢の宣帝、曹操、符堅、順治帝)だけで、あとは宰相や激動の人生を過ごした人物や在野の活動家などが多く、軍…

最近見た存在しない映画(2023年8月)

午後の大進撃(2003年、日本、監督:トニー浅利、65分) スラプスティックハチャメチャドタバタコメディ。主に90-00年代の『アフターヌーン』誌に掲載されていた漫画のキャラクターたちが所狭しと暴れまわる楽しいアニメーション。周年記念のお祭り企画で始…

最近見た映画(2023年8月)

騙し絵の牙(2021年、日本、監督:吉田大八、113分) 面白い。最序盤は葬儀から始まることもあってやや雰囲気が暗く「この感じで続いていくならちょっと嫌だなあ」と思っていたけどハイテンポエンタメでサスペンス要素も良く出来ていてとても楽しかった。フ…

ロアルド・ダール『あなたに似た人』〔暗がりの奇妙な味〕

番組名はちょっと忘れてしまったけど、テレビで紹介されてたから読み始めた*1、という珍しいパターンの本。紹介していたのは芸人のカズレーザーさんで、「南からきた男」を推していた。同席していたコメンテーターは「味」もいいと言っていた。なるほどなあ…

岡野昭仁1stアルバム『Walkin' with a song』感想

音楽と故郷と光。贈り物でいっぱいのおもちゃ箱。 詞曲の提供だけで総計20名*1ものミュージシャンが関わっているだけに彩り豊かなアルバムに仕上がっている。全体の雰囲気はやや落ち着いている印象があって、それは『Walkin' with a song』歌を抱えて歩いて…

さいきんよくみる変なゆめ

みなさんこんにちは、電々(id:dennden)です。お久しぶりです。……ほんと、お久しぶりです。いまこの時点で49日もブログをさぼっていました。二か月近く何の音沙汰もなく放置してしまって、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。なんだか何をする気力も起…

最近見た存在しない映画(2023年7月)

早乙女さんにはもうデスゲームしかない(2023年、日本、監督:浜輪裕、105分) 青春コメディ。監督を含めてかなり若手のスタッフで製作されていて役者も作品設定の通り高校生が起用されているらしい。撮影現場の雰囲気も良かったんだろうなあ、きっと和気藹…

最近見た映画(2023年7月)

八つ墓村(1977年、日本、監督:野村芳太郎、151分) 片田舎を舞台に腐敗した旧家と現地の奇妙な伝承を巡って殺人事件が発生し、外部の人間が捜査に乗り出す……というとおれはテレビ朝日『トリック』を思い出すけど、たぶんこの時期の諸作品がその源流なのだ…

フランチェスカ・T・バルビニ/フランチェスコ・ヴァルソ『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』[短くキレのあるアンソロジー]

イスラエルに続き非英語圏SFアンソロジー。前作(?)と比べてページ数がかなり減っていてちょっと心配になったけど、前作に負けず劣らず良いアンソロジーだった。 全体的にディストピア的で雰囲気は暗いけど主人公たちはどこか前向きで救いがたい物語が少な…

最近見た存在しない映画(2023年6月)

ソーシャル・エンジニアリング(2021年、ギリシア、監督:ディミトラ・ハリトス、79分) 原作と同じくシンプルで良く纏まった映画。映像のレベルも高くて、特にナビゲーターがくるくると入れ替わる冒頭のシーンはとても印象的。ただ、この手の拡張現実の描写…

最近見た映画(2023年6月)

名探偵ピカチュウ(2019年、アメリカ/日本、監督:ロブ・レターマン、104分) 思っていたよりCGの出来がいいなあ、というのが第一印象。質感が不気味の谷に落ちるギリギリにいて、表情の豊かさや仕草の可愛らしさは素晴らしいものがある。ポケモンが生活に溶…

最近見た存在しない映画(2023年5月)

AWAY―アウェイ―(2021年、日本、監督:茂戸実、107分) とても良く纏まっていている誠実な映画。やや過剰な演出もあったけど、全体的に落ち着いていて役者も演技巧者揃い。ただ、パニックホラー的な側面がかなり強化されていているから、そういうのが苦手に…

最近見た映画(2023年5月)

映画 真・三國無双(2021年、香港/中国/日本、監督:ロイ・チョウ、118分) 中国の『三国志演義』を基にした日本のゲーム『三國無双』シリーズを原作にした香港と中国と日本の合作映画がグルっと一周回って日本に翻訳輸入されてきたらしい。というか『三国無…

死ぬまでにお琴を習いたい

最近、米津玄師さん*1をよく聴いている。 STRAY SHEEP (アートブック盤(Blu-ray)) アーティスト:米津玄師 SME Amazon それまでも身内にそれなりのファンがいたからそれなりに耳にしてはいた。姉はハチ時代から母は「Lemon」から好きでよく「この曲*2がいい」…

シェルドン・テイテルバウム /エマヌエル・ロテム『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』[想像よりずっとバラエティパック]

こういう珍しいアンソロジーを翻訳出版してくれるのは本当にありがたい。知らない作者に知らない作品がいっぱいだあ。 序盤の作品は正直あんまり好みじゃないなくてページ数の多さもあってしばらく放置してたけど、「信心者たち」からグッと面白くなって、そ…

アルカジイ/ボリス・ストルガツキー『ストーカー』[古典的な冒険と現代的な発想の飛躍]

公式YouTubeで気軽に視聴できる映画版を眺めていたら*1懐かしくなってきたので再読。 面白い。久しぶりに一気読みしたくらい。初めて読んだときは、基本的な設定だけは知っていたけど、想像よりずっとアウトロ寄りだったのに驚いたのを覚えている。ダンジョ…

最近見た存在しない映画(2023年4月)

裏バイト:逃亡禁止 劇場版(2027年、日本、監督:佐久間キュウ、119分) テレビシリーズの好評を受けて製作された劇場版で、テレビドラマ版から一気に視聴した。音楽を多用せず大げさな声をあげることもなくキッチリ正道に恐ろしいのはテレビシリーズから変…

最近見た映画(2023年4月)

ノイズ(2022年、日本、監督:廣木隆一、128分) 何かの記憶違いかもしれないけど物凄く明るいCMを観た記憶があって「がんばればがんばるほど不条理に死体が増えていく。一体どうすんのこれ!」みたいなコメディサスペンスなのかなと思って観始めた。もちろ…

ロアルド・ダール『キス・キス』[意地悪いよなあ……]

一度でも目にしたら忘れられない、印象的なタイトルの短編集。 久しぶりに読み返した。初読のときよりはるかに面白く感じたのは、やっぱり読んだ当時の偏見……というか思い込みがあったからかなと思う。奇妙な味の典型的作家って聞いて読み始めたのだけど、「…

観たいのに入手困難な映画やドラマ

世界が燃えつきる日 地球じゃなくて世界です。地球の方はそれなりに手に入るみたいだけど、こっちは入手が難しい。なにせAmazonで五万近くの値段がついている。いやあ、いくらなんでもそんな値段では買えないなあ。 そもそもなんでこんな……あまり出来が良さ…

諡号と追号と名前の不思議

えっ、明治天皇と康熙帝って諡号じゃなかったの!? ……と、つい先日、大学での専攻が歴史学だったとは思えない無知で生き恥を晒してしまった。明治天皇と康熙帝の「明治」と「康熙」はどちらも年号からとられているのだけど、前者は追号(諡号と違って評価を…

最近見た存在しない映画(2023年3月)

花と機械とゲシタルト(1987年、日本、監督:山岡治、99分) かなり尖った絵柄で、正直パッケージを見たときはあまり良い印象を受けなかったけど、想像よりずっと原作と合った雰囲気を出せていた。デフォルメが効いた絵柄にどこか暗めの色調、そして抑揚の効…

最近見た映画(2023年3月)

トップガン マーヴェリック(2022年、アメリカ、監督:ジョセフ・コシンスキー、131分) カッコイイ。 スゲエ面白かった。誰もが予想する「絶対こうなるよなあ」ってのをまったく外さずに完璧に面白いものに仕上がっているのは本当に奇跡的だと思う。各所で…

ポルノグラフィティ11thアルバム『BUTTERFLY EFFECT』感想

夜と言葉のリズム。 暗い……というのはちょっと違うけど、アルバム全体から陽の光を感じないというか、どこか夜を思い起こさせる曲が多い。パッと明るい曲が「君の愛読書がケルアックだった件」と「スパイス」くらいだからというのもあるけど、やっぱり「Fade…

宮内悠介リクエスト『博奕のアンソロジー』[多種多様な競技。審判としての博奕]

博奕を題材にしたアンソロジーということだけど、前書きにもある通り、サイコロやカードを使ったギャンブルに限らず「人生の岐路における選択」のような生活における選択も一つの博奕として取り扱っている。 以下、抜粋して感想。 梓崎優「獅子の町の夜」 か…

星新一「白い服の男」[普遍性という最高の美点]

SFの定義は千差万別、人それぞれにたくさんの回答がある。実在の科学をベースにしなければSFではないという人もいれば、面白ければ科学的に間違っていてもよいという人もいる。サイエンスフィクションであり少し不思議でありスペキュレイティヴフィクション…

最近見た存在しない映画(2023年2月)

天使のハンマー(2000年、日本、監督:和達孝敏、93分) 時系列の管理が完璧な映画。最初と最後が一致する構成で、しかも頻繁に回想を挿入しているのに表現が明快で物語の筋がスッと頭に入ってくる。 あだち充作品でも一二を争うほど暗く、救いがない物語。…

最近見た映画(2023年2月)

ハリポタ祭りしてました。原作はリアルタイムで全巻読読破して、映画も三作目までは劇場で観たんだけどそれ以降は足を運ばず小説だけですませていた。大学のころにレンタルで一気見して、その一年か二年後に春休みか冬休みの帰省で原作を読み返した。だから…