電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た存在しない映画(2023年2月)

天使のハンマー(2000年、日本、監督:和達孝敏、93分)

 時系列の管理が完璧な映画。最初と最後が一致する構成で、しかも頻繁に回想を挿入しているのに表現が明快で物語の筋がスッと頭に入ってくる。

 あだち充作品でも一二を争うほど暗く、救いがない物語。印象的なラストシーンはこれ以上ないほど完璧に映像化されている。夜の暗さと電燈の明るさ、雪の純粋な白さと少量の血痕の鮮烈な赤の対比が素晴らしく、画面の秒数も音楽の静謐さも役者も奇跡的なほど過不足がない。

 個人的にこの作品は人物の配置や物語の展開的に『H2』と表と裏の関係にあると思っている。あだち充先生はスポーツラブコメの大家の印象が強いけど、同時に多くの作品は友情の物語でもあって、そういう方面でのもう一つの結末が描かれている。あと、少し調べてみたけど「天使のハンマー」というフォークソングがあるみたいで、これがタイトルの元ネタかな。公民権運動についての歌らしいけど、歌詞をそのままストレートに読むと本作の内容と一致するところも多い。

《印象的なシーン》ラスト三十秒のすべて。

 

 

ファスト・ミュージック(2034年、日本、監督:児玉希典、95分)

 こういうタイプの映画は初めて見るけど、思ったよりずっと面白かった。性根が腐りきった天才作家と才能のかけらもない完璧な人格者の作家、という対称的な人間関係をベースにドタバタと愛憎劇が繰り広げられる。対極的な両者だけど、二人でいるときに限って天才は若干物腰が柔らかくなり、聖人の方はやや口が悪くなるところもかなり好印象。知り合いが「最高のBL映画」と嬉しそうに語っていたけど、どちらかというとブロマンスじゃないかな。まあ、この辺は完全に主観に過ぎないけど。別に定義があるわけでもないしねえ。

 すれ違いによる個性の発露をテーマにしたストーリーは、個人的にはかなり新鮮な作品だったけど、有識者によるとこういうジャンルの作品としてはありきたりな筋らしい。職業である小説稼業についての描写はかなり薄く、二人の天才性と平凡さを表現しきれていない。まあ、この辺はすごさを描写するのが難しいからねえ。ただ、小説の内容を再現するという体で挿入されるバンドの演奏シーンは目を見張るものがある。

《印象的なシーン》中盤あたりの圧巻の音楽描写。

 

 

もう勘弁してくれ!(2019年、日本、監督:白土恒平、88分)

 かなり変わり種のホラー映画。主観視点POVで、最初はオーソドックスに何気ない日常を描き、徐々に恐ろしい現象が起き始め……というところまでは普通のホラーなんだけど、これが延々と起き続けることで主人公も慣れてきて(一人称視点で全編無言なのにそれがわかるのも凄い)徐々にコメディ的な展開へとシフトしていく。これの何がすごいかって視点者が慣れているだけで起きる現象はちゃんと怖いところだ。そして、コメディに慣れ切ったところで衝撃的なオチ。怖がらせて、笑わせて、ゾッとさせる。素晴らしい。

 なんか既視感があるなあ、と思っていたら「冷蔵庫に生首が入っていて驚きつつも何度も扉を開いて見直す」というコピペがあって、それが発想の元なんじゃないかな。まあ、単純なコメディに留まらないオチを付けたところが単なるネットの小話とプロの映像作品を分けているのかもしれない。

《印象的なシーン》鏡に映った姿。

勘弁してくれ

勘弁してくれ

  • KURAMAE RECORDS
Amazon

 

 

スター・マウス(1970年、ドイツ、監督:ウォルト・アイワークス、89分)

 ハハッ。

 冒頭でいきなり夢の国のネズミさんが登場するけど、これ大丈夫なのかな。まさか『エスケイプ・フロム・トゥモロー』みたいに無許可で撮ったんじゃないよね。いや、有名な製作会社が担当しているし監督も原作者もかなり著名な人物だからそんなことはないと思うけど……。まあ、そのネズミさんも冒頭にちょっと顔を出すだけで本筋にはほとんど絡まないわけだけど、インパクトがあるから話題にはなるよなあ。

 改めて原作を読み返したけど、原作の軽妙な語り口がイマイチ反映されていなところは残念。まあ、不満点はそれくらいで良く出来た映画ではあると思う。

《印象的なシーン》「チュチュッ」

 

 

贈り物の意味(2046年、日本、監督:真崎有智夫、10分)

 かなりオーソドックスだけど悪くない。短い時間でコンパクトに纏まった後味の良い作品。主人公役の役者はイマイチだったけど、後輩の方は一人二役(?)もキチンとこなせていて、かなり良かった。オチがタイトルと有機的に繋がっているのも好印象。

《印象的なシーン》主人公の死んだ魚のような目。