電羊倉庫

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フィリップ・K・ディック『悪夢機械』〔魘される悪夢から喩えとしての機械までバラエティに富む短編集〕

 収録作はすべて既読。タイトルにあるように一夜の「悪夢」的な展開の作品(「調整班」「スパイはだれだ」「出口はどこかの入口」「凍った旅」)直喩比喩を含む「機械」的なものを扱った作品(「超能力世界」「新世代」「少数報告」)そのほかこの二つに括れない作品までバラエティに富んでいる。収録作の感想は大森望編『ディック短編傑作選』シリーズで書いたので省略する。

 やっぱり「凍った旅」が素晴らしい。作品自体の完成度とディック要素が良いバランスで成り立っている。晩年の作品の中で一二を争うくらい好きかもしれない。「少数報告」についてはやっぱり倫理観のブレがちょっと気になる。面白いのは面白んだけどなあ。「超能力世界」にも似たような感情を持つ。「超能力世界」はよく出来た作品でわりとちゃんとしているうえにディック特有の薄暗さや安っぽさが目くるめく展開と適合しているのは短さゆえのちょっとした奇跡だと思う。長編だったらもっと破綻していたとんじゃないかな。「スパイはだれだ」のテラ人医師の音声

「彼の固定観念は揺るがすことができない。彼の生活は固定観念に支配されている。彼はあらゆる事件、あらゆる人物、あらゆる偶然の発言、偶然の出来事を、論理的に自分の体系の中に織りこむ。 彼は世界が自分に対して陰謀をくわだてていること自分がなみはずれた重要性と能力をもつ人物であり、その自分に対して果てしない策謀がこらされていることを確信している。 それらの陰謀の裏をかくために、パラノイア患者は自分を守ろうと無限の努力をする。彼はくりかえして当局の活動をビデオテープに撮影し、たえず住居をかえ、そして、危険な最終段階になると、おそらく――」

(P96-97)

というテキストが好き。とてもディック。

 

 

収録作一覧(当該短編の感想はリンク先)

「訪問者」
「調整班」
「スパイはだれだ」
「超能力世界」
「新世代」
「輪廻の車」
「少数報告」
「くずれてしまえ」
「出口はどこかへの入口」
「凍った旅」