電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2023年4月)

裏バイト:逃亡禁止 劇場版(2027年、日本、監督:佐久間キュウ、119分)

 テレビシリーズの好評を受けて製作された劇場版で、テレビドラマ版から一気に視聴した。音楽を多用せず大げさな声をあげることもなくキッチリ正道に恐ろしいのはテレビシリーズから変わらず良い。ただ、怪異のCGの出来にムラがあるのが改善されていないのは残念。特にウサきゅうはかなりひどい。あれやるくらいだったら普通の着ぐるみ出した方がマシだった。

 原作の「駅員バイト」「遊園地スタッフ」を中心に作られている。テレビシリーズでは原作のコミカル(ブラックユーモア)なところがかなりオミットされていたけど、本作では橙を中心に存分に発揮されている。それだけに終盤の残酷なシーンが際立ち、ラストに心の底から安堵する。とても効果的な使い方だと思う。

 個人的に好きなエピソード「葬儀屋スタッフ」「交通量調査」「特殊清掃員」が映像化されていないから、それこそドラマでも映画でもいいからぜひ続編を作ってほしい。特に「葬儀屋スタッフ」は読み返すたびに体調が悪くなるくらい好きで、映像で見たら嘔吐するかもしれない。

《印象的なシーン》八木の最期。

 

 

プロット・プロップ・プロンプト(2019年、アメリカ、監督:レイ・パジェット、99分)

 古今東西のさまざまな演出手法がふんだんに盛り込まれた実験的な映画。ギャディスの旋回カメラワークを筆頭にキューブリック凝視、アンティペイション、ショートスタンド、平井型変身行動、板野サーカス、エンジェルキッス、ウォルハイム魚眼レンズ等おれが気付いただけでもこれだけ使われていた。

 どちらかというと映像の美麗さを楽しむ作品みたいで物語はやや退屈だった。これだけ凝った手法、特に森日スニーキングを使った迫真の映像を作れるんだからもう少し起伏のあるストーリーにしてくれてもよかったんじゃないかな。やっぱり宇宙人か恐竜が出てくるか、最低限殺人事件が起きないとつまらない……のはおれが俗すぎるからか。

 ちなみにカメラの視点も一人称(POV)、二人称(ビデオレター)、三人称(通常カメラ)と目まぐるしく移り変わる。あまり詳しくはわからないけどカメラの数も種類も半端ではないらしくて、それなりにヒットしたはずなのに興行収入としては赤字らしい。

《印象的なシーン》ジョンの五分間にわたる演出の粋を尽くした一人芝居。

 

 

鬨(1988年、イギリス、監督:ウォークライ・メテオラゴン、78分)

 半ドキュメンタリー的な映画。古代の戦争における鬨の声から勝鬨、そこから派生して武芸での鬨の発声、そして現代スポーツでの掛け声としての鬨を、名もなき男の子孫たちを追うような形で描いている。

 印象的なのは負けてなお勝鬨の声をあげるシーン。それぞれ名もなき小さな地域の小競り合い、第一次世界大戦の局地戦、大学対抗ラグビーと時代と状況が変わってもほぼ同じ流れで行われる勝鬨の声は胸に刺さる。

 ある評論家は「全体的にやや散漫で取材が浅い。もう少し視点を絞って描いたほうが良かった」と評していたけど、どうなんだろう。正直、おれはヨーロッパ史はほとんどわからないからあのくらいの内容でもとても新鮮だった。

《印象的なシーン》「アッララララーイ」

 

 

鄭七世(1996年、中国、監督:曹備徳、113分)

 古代中国の鄭代を題材にした映画で、タイトルは七世とあるけど、前後の六世八世も取り扱っている。この時代は中国史上でも珍しく天子(最高権威)と皇帝(最高権力)が完全に分離している時代で、哲人天子として有名な七世を主役に抜擢したのも当時としてはけっこう画期的だったらしい。前代は鄭ではタブーだった天子と皇帝を兼ねてしまったがゆえに皇帝として誅殺*1されてしまった(鄭六世哀帝)だけに気苦労が絶えず良くも悪くも英雄気質だった項棣徹(肅武帝)の外征欲をコントロールしつつ彼に振り回されるさまはほとんど悲喜劇で出来の良いコントのようだった。いや、笑い事じゃないんだけどね。そして世継ぎの八世は時の皇帝である袁遂(莊愛帝)に危うく殺されかけ(史上初の皇帝による天子弑逆未遂)ながらも礼制や官制を整えて鄭中興の祖である十世と李啓(景文帝)のコンビへバトンを繋げる、と希望のあるエンドなのもよい。

 鄭代でも一二を争うほど熾烈な時代に哲学的な書物を記そうと思いにふける七世は茫洋とした表情が目立つけど、洛南の変での候万を威圧する場面は肌が粟立つほど素晴らしかった。

 ただ、どうしてもこの手の映画には史学的なツッコミが入るらしく、作中で重要なエピソードである「肉粥」や「カエルの鳴き声」は捏造がほぼ確定しているらしい。けど、まあ、制作年代のこともあるし娯楽映画にそこまで求めてもねえ……。

《印象的なシーン》「これは慶侍中の血だ。触るんじゃない!」

 

 

未明の友(1990年、日本、監督:真崎有智夫、10分)

 創意工夫はみられないけどシンプルに纏まった映画。まあ、十分くらいの映画だからこんなものでしょう。役者の二人もそれなりに巧いし、特に大きな破綻もない。人の気配がない田舎町の雰囲気もノスタルジックで良い。

《印象的なシーン》ラストシーンのベル。

*1:天子殺害はタブーだけど皇帝殺害はそれほどタブーではなかった。