電羊倉庫

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最近見た映画(2023年3月)

トップガン マーヴェリック(2022年、アメリカ、監督:ジョセフ・コシンスキー、131分)

 カッコイイ。

 スゲエ面白かった。誰もが予想する「絶対こうなるよなあ」ってのをまったく外さずに完璧に面白いものに仕上がっているのは本当に奇跡的だと思う。各所で言われている通り深みとか広がりとかそういうものは全くないけど、人間ドラマもそれなりに起伏がありアクションもちゃんと楽しく爽快なラストシーンで締める、と娯楽映画の教科書のような映画。

 前作はやや青春要素が強かったけど本作でのそれは最小限に抑えられていて、物語の基軸がマーヴェリックとルースターから逸れなかったのも傑作になったり理由の一つだと思う。というか、一作目の『トップガン』に求めていたのはこういう映画だった。ちなみに一作目へのオマージュ的なシーンもそれなりにあるけど、そのほとんどが上手く機能している。ただ、ペニーだけは誰だかわからなくて困惑した。

 ネットでは「こういうのでいいんだよ」的な反応が多かったけど、まさに同感。ただ、「後半三十分くらい『ミッション:インポッシブル』やってただろ」という意見には笑った。そのあとのご都合主義的な展開を含めて、やっぱり最高の娯楽映画だったと思う。

《印象的なシーン》「お前のためにできることは?」“任務の話をしたい”

 

 

ゲット・アウト(2017年、アメリカ、監督:ジョーダン・ピール、103分)

 社会派ホラー映画と聞くとちょっと気おくれしてしまうけど、純粋なサスペンスホラーとしても良く出来ていて、肩ひじ張らずに観ることもできる。とはいえ、基本的には現実の社会問題を意識してみる方が正統だろう。催眠術やそれを解く道具は奴隷制や差別を象徴するものを用いているらしい。その辺の考察はこのサイトが参考になった。

 本作は黒人奴隷制や黒人差別をテーマにした映画だけど、感想サイトでは「いわゆるリベラルな人々の欺瞞を描いた映画だ」と言っている人もそれなりにいた。たしかに作中で残酷な行動に出るのは典型的な差別主義者ではなく良識を持っている(ように見える)人々なわけで、そういう観方もできなくはない。ただ、基本的にはもっとストレートに観る方が正しい気はする。そんな風に別の観方ができるのは映画に余白があるということで素晴らしいことなんじゃないかな。

 一点だけ気になったのは主人公の親友のロッド。ちょっといかがなものかなあ。コメディリリーフとして良い味出していたのは事実だけど、同時に黒人による偏見を体現した人物でもあると思う。大枠では間違っていなかったとはいえ、かなり偏見に満ちたこと言っているんだよなあ……。

《印象的なシーン》突然襲い掛かってくるおばあちゃま。

 

 

スリー・フロム・ヘル(2019年、アメリカ、監督:ロブ・ゾンビ、115分)

 うーん……期待していた感じの映画じゃなかったなあ、というのが正直なところ。もっと爽快スプラッタロードムービーだと思ってた。脱獄するまでの前半部分は陰湿でスプラッタ描写もイマイチだし、保安官の家→モーテル→メキシコと旅をしている感じもかなり薄い。メキシコでの一幕はけっこう良かったから、前半をもっと圧縮して旅の先々でああいうことを繰り返す感じにしてほしかったなあ。

 というかこれ、シリーズものの続編だったのか。道理で妙なシーンから始まるな、と思ったんだよなあ。初めは「ああ、この悪党一家は最終的には誅殺されてしまうんですよ、と最初に暗示してくれるのかあ。諸行無常だなあ」とか呑気に考えていたら全然関係ないラストで面食らったよ。このシリーズ二作目までは副題で続編であることを提示してくれていたのにどうして外したんだ……。

 ハリポタシリーズのベラトリックス・レストレンジを煮詰めたような性格しているベイビーはとても印象深い。好きだけど嫌い。腹立ちすぎて途中で視聴やめようかとも思った。

《印象的なシーン》弓矢で殺し屋を狙うベイビー。

 

 

ファウスト(1994年、チェコ、監督:ヤン・シュヴァンクマイエル、97分)

 姉がヤン・シュヴァンクマイエルのファンで、『アリス』と『サヴァイヴィング・ライフ』と名前は忘れたけど短編をいくつか(向かい合って二人がテーブルとか靴とか食べる作品等)は観たことがある。ストップモーションと実写を組み合わせた映像は当時のおれにはとても新鮮で食い入るように魅入っていたことを覚えている*1

 何故こんなどうでもいい自分語りをしたのかというと、『ファウスト』の感想を書くのがめちゃくちゃ難しいからです。どう表現したらいいのかわからない。元ネタの『ファウスト』のことをほとんど知らないから、というのもあるけど「どこがどうなって、だからここが面白い/つまらない」的なことが書けない。個人的には現実と非現実がシームレスに混在する世界観は大好物でディック的な現実ぐらぐら感はとても楽しかった。天上の糸で操作される操り人形、というモチーフはべスター「地獄は永遠に」を思い出したけど、やっぱり操り人形劇の文化圏ってのがあるのかな。あと、相変わらず飯が不味そうなのは本当にすごいと思う。上記の短編では食べ物でないものが異常に美味そうだったのと好対照だ。

《印象的なシーン》扉で潰される人形の頭。

 

 

お雛様のヘアカット(2022年、日本、監督:溝口稔、30分)

 かなり面白かった。比較的オーソドックスな内容だけど、このくらいギュッと圧縮していてくれるとテンポも良いし展開を先読みしてしまってゲンナリすることもないし、適度に感情移入出来て純粋に物語を楽しめる。長編大作ならともかくショートムービーだし、あれくらいモノローグで説明した方が観る方も作る方も負担が減って良いと思う。

《印象的なシーン》初めてのヘアカット。

 

 

おるすばんの味。(2017年、日本、監督:武石昂大、10分)

 青年誌の読み切りのような作品。台詞外で伝わる情報が思いのほか多くて、彼女がどういう人生を歩んできたのか想像できるのは素晴らしい。何か大きな事件が起きるわけでも重大な変化が起きるわけでもない。ささやかな前進の物語。

《印象的なシーン》幼き日の自分を自転車で追い越す場面。

*1:正確に言うと幼き日に観たのは短編だけで『アリス』と『サヴァイヴィング・ライフ』はだいぶ後になってから観た