電羊倉庫

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最近見た存在しない映画(2024年4月)

泥男の恐怖(1951年、アメリカ、監督:M・V・メルト、78分)

 スタージョンの短編「それ」を原作にした映画で、この年代特有のゆっくりとした展開と鋭いBGM、画面全体の薄気味の悪さ、そして原作にもある生理的な気持ち悪さを増幅させたヴィジュアルがホラー映画としての役割を存分に果たしている。人の相似形としての「それ」の造形もどこか(いや、時系列から言えば逆なんだけど……)ヘドラを思い出させるおどろおどろしさでたまらない。

 原作にあった視点の変化はほとんど反映されていなくて、一貫してコリーの視点で物語は進む。個人的には兄弟の関係性がかなり険悪に描かれているのは不満。そりゃあ、ホラー的には多少ギスギスしていたほうが都合がいいのだろうけど、あの兄弟と、そして母子の関係性はスタージョン特有の「複数人で一単位」みたいなものだからオミットしないでほしかったなあ……。

 ラストはかなりハッピーエンド風に改変されているて、当時はあまり評判が良くなかったらしい。陳腐な改変と言われれば、たしかにそうなんだけど、おれは割と好き。個人的にはキンボーが無事だったのは良かった。まあ、オルトンは助からないけど、さすがにモンスターホラー映画で犠牲者ゼロはちょっと……だから仕方ないか。

《印象的なシーン》叫び声をあげるベイブ。

 

 

変身人間ちえ(1959年、日本、監督:本田四郎、89分)

 東宝の変身人間シリーズに連なる作品。ただ、本作はSFというよりはファンタジーで特撮的な派手さもかなり抑えめ。少女が化け物に変身してしまうという設定は後年の特撮ヒーロー系の作品に類似している。そういう意味では異端で、シリーズには含めないとする評論家もいるらしい。ただ、そういう評論家も映画の内容自体は絶賛している人が多く、一見の価値があるのは間違いない。

 主人公とヒロインが抱える問題を、その周囲の人間たちと衝突/協力しながら徐々に解決していく。ヒトの二面性……というか表層からは見えない多面性が一つのテーマ。変身とその解除方法はラブコメ要素として作用している。設定自体はやや奇を衒っているようだけどストーリー自体はオーソドックス。役者陣のビジュアルがかなり良くて、それだけに変身した泥曰のビジュアルの異質さが際立つ。良く出来た良い映画。かなり好き。

 シンプルなシナリオとはいえ、やや寸足らずというか、かなり消化不良のまま幕を閉じるのは不満ではある。もう少し尺をって終盤付近を肉付けしてくれてもよかったんじゃないかな。まあ大人の都合がいろいろあるんだろうけど……。あと個人的には八乙女のことをもう少し掘り下げてほしかった。良いキャラしてると思うんだけどなあ。

《印象的なシーン》「こいつ やばいな」

 

 

アリストテレスの誤解(1957年、イギリス、監督:スーミ・オレル、112分)

 タイトルはアリストテレスが提唱した貨幣の起源についての誤解。貨幣の起源はアリストテレスが説いた「物々交換を円滑にするための媒体」ではなく「債務関係を明確にするための社会的な技術」であったらしい。概念としての数値、とかそんなニュアンスかな。劇中でもそんな感じで説明され、それは「人間に関する各種数字の多寡がその人の生活や究極的には生命そのものを決定する」という作品設定に反映されている。

 膂力や走力といった純身体能力から情報処理能力や記憶力といった知的な能力、アルコールやカフェインの処理能力、変わったところでは速記や滑舌といったあらゆる能力それぞれに固有の単位が割り振られ、さらにそれが交換可能であることがこの作品の肝になっているわけだけど、この辺の詳細な設定を提示するのがやや遅くて唐突感があるのが難点といえば難点。展開は山あり谷ありで楽しく、ラストも前振りをちゃんと回収したすっきりしたもの。良い映画です。

 正直、途中で頭がこんがらがってなにをやっているのかよくわからなくなったけど、まあ基本的な設定だけ抑えていれば雰囲気を楽しむことはできる。これをこの年代で発送してまがりなりにも作品としてまとめているのは本当にすごいと思う。

《印象的なシーン》身長と体重を交換したいと駄々をこねる男。

 

 

自動車大戦争(1953年、アメリカ、監督:ビリー・ルース、100分)

 意思を持った自動車たちがただひたすら互いを壊し合う、ただそれだけの映画。画面がごちゃごちゃしていてほとんど無意味にゆらゆら揺れる上に薄暗くて何が起きているか分かりにくい。もちろんそうじゃない場面もあるにはあるけど、割合的には少数で観ずらいことには変わりない。リアリティを追究した結果、と監督がインタビューで語っていたらしいけど、リアリティとユーザビリティだったら後者を優先すべきだと思う。そういう意味では不満の残る映画だった。特に本作娯楽映画なんだし。

 けれどヤバい映画だった。すごい。CG技術がそれほど発展していないこの時代にこんんな大乱闘を撮れたのは技術的にも資金的にも人命的にもそうとうなものが投入されていたはず。前述の観ずらさについて「技術的な拙さを隠すための小細工」と言っている人がいたけど、明度をあげても鑑賞に堪える凄まじさだった。

 車好きの人のレビューを読んでみたけど賛否がきっぱり分かれていたのが面白かった。大意で括ると賛の人は「単純に自動車がたくさん出てきて楽しい」で否の人は「好きな自動車が無意味に破壊されるのが哀しい」といったものだった。おれは特に車が好きというわけではないから単純にアクション映画として楽しんだ。

《印象的なシーン》爆発炎上する複数の高級車。

 

 

見える?(1950年、国、監督:真崎有智夫、10分)

 ショートホラー映画。悪い作品ではないけど、昨今の自主製作映画やテレビドラマの和製ホラーはレベルが高く、それと比べると見劣りするのも否めないけれど、個人的には割と好きな作品。ややSFっぽい幽霊の解釈がラストとかみ合っている。

《印象的なシーン》佐々木の真顔。