電羊倉庫

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最近見た映画(2021年12月)

ソウ(2004年、アメリカ、監督:ジェームズ・ワン、111分)

 やっちまった。あまりに有名な映画で「たぶん観ないだろう」という油断もあったけど、鑑賞前に最後のオチを聞いてしまった。マジで後悔している。知らない状態であのオチを観たかった……。

 複雑だけど単純明快。矛盾した表現になってしまうけど、そうとしか言いようがない。余計なものがほとんど入っていないからこその傑作。ただ、ゴードンはあそこに連れてこられるほどの人ではない気がするんだけどなあ……。

 世代柄、作品の設定や行動の経過に脱出系のフラッシュゲームを感じてしまうけど、たぶん順序が逆で本作のヒットでああいうゲームが増殖したのだろう。そういう意味では(間接的に)思春期に多大な影響を受けている作品なのかもしれない。

《印象的なシーン》挿入される三つのゲームでの早回し演出。

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バスターの壊れた心(2016年、アメリカ、監督:サラ・アディナ・スミス、97分)

 ホテル従業員が徐々に心のバランスを崩していくという意味では『シャイニング』を、宗教めいた雰囲気にSFを絡めた現実逃避的な作風はフィリップ・K・ディック*1を連想する作品。細部を無視すれば物語の筋自体はそれほど難しいものではないけれど、きちんとすべてを解釈しようとすると途端にわからなくなる。

 逆向き、駆除業者の男=テレビに出ていた科学者(?)、鯨の腹の中、玉ねぎ型の宇宙……最後の最後の宙に向けての発砲は玉ねぎ型の宇宙の中心を抜けていったということなのかな。世界がおかしくなったのか、自分がおかしくなったのか。現象やモチーフの意味がわかりそうでわからない……からこそ妙に魅力的な映画になっている。作中で派手な出来事が起きないこと、主人公が比較的口数が少ないことが良い方向に作用しているような気がする。

 そしてやっぱりキリスト教モチーフがあまりピンとこない。海外小説で宗教文化の違いでひっかかった記憶はないけれど映画には地の文の説明がないからかもしれない。もしくは視覚映像で提示されると余計に混乱してしまうのか。

《印象的なシーン》「駆除業者を送ったわ」

 

 

昆虫怪獣の襲来(1958年、アメリカ、監督:ケネス・G・クレイン、71分)

 なんでこういうのを定期的に見たくなるんだろう。90分以内で完結する「何をするのか何を目指すのか」が明確な映画となるとやっぱりこの辺に落ち着くからかもしれない。もしくは高尚な作品や超大作に触れたくないという心の老化か。

 肝心の内容は、うーん……いや、時代を考慮してもちょっと誤魔化しが多すぎないかな。主題の昆虫怪獣との戦いはラスト20分もないくらいで、しかもろくなアクションシーンはなく終わってしまう。もちろん、山越しにこちらを覗いてくる巨大蜂、という恐怖感を強調する演出は良かった。ただ、それにしても70分しかないのに30分以上を現地へ向かう旅程に費やすのはいかがなものかなあ……。そりゃあ、すんなりアフリカに行かないほうがリアリティとかあるだろうし、旅程のシーンだって別にレベルが低いわけじゃない。ただ、そういうのを求めて観たわけじゃないからなあ。

  本編評価とはちょっと外れるけど中盤の現地部族による急襲のシーンがとてもよかった。バラバラと統制が取れていないけれど勇猛果敢な描写は原始的な戦争形態としてかなりよくできているんじゃないかな*2

《印象的なシーン》中盤の現地部族による急襲。

 

 

項羽と劉邦 鴻門の会(2014年、中国、監督:陸川、116分)

 想像の十倍くらい陰鬱な映画だった。華やかさは薄く、どこか息苦しくて埃っぽい。そして劉邦晩年の粛清をメインで取り扱っているだけに宮中も薄暗くて人々の表情も暗く、しかも主要人物たちはみな老いさらばえていてどこか物悲しさすらある。けれどそこが妙にリアルというか、文明が進んでいたといっても古代国家なわけだからそのくらいのほうが現実味があってとてもよかった。

 ラストの「鴻門の会こそが人生そのものだった」というセリフの通り、全編にわたり剣舞のイメージがちりばめられていている。あの会合に人間関係が圧縮されているし、ちょっと穿った目でみれば「多くの人に助けられながら自分は具体的になにか立派なことをできたわけではなかった」という鴻門の会の顛末はそのまま劉邦の人生だった、ともとれる。まあ、さすがにそれは劉邦を過小評価していると思うけど。あと本編の評価とはあまり関係ないけど竹簡が管から流れてくるシーンはなんだか『未来世紀ブラジル』みたいだなあ、なんて思った。あと知名度の問題で仕方ないとはいえ、邦題に使われている項羽の出番や言及される回数は少なく、どちらかというと「韓信劉邦」だった。

 ちょっと歴史の話になるけど、正直韓信についてはあまり同情できない。反逆の意志があったかはともかく、まともな保身の行動がとれていなかったのは事実だし。あと戚夫人もあの最期が適切だったとは言えないけど、処断されること自体は当然ではある。明らかに利己心から敵対行動をとっているし。まあ、この辺は中華大陸統一の最初期なわけでほぼ前例がないことだったし、過剰には責めたてるのも不公平なんだろうけど……。

 どこまで時代考証が正確なのかはわからないけど、建物や儀式などが詳細に描写されていて、史書の『史記』や『漢書』が読みたくなってくる。

《印象的なシーン》張良が泣きながら献策するシーン。

 

 

あたおかあさん(2020年、日本、監督:大倉寛之、10分)

 うーん……もっとサイコサスペンス的なコメディなのかと思っていて、そういう意味では期待外れだった。ただ、根幹のオチは嫌いではないしタイトルについても「さん」を付けていることの意味を好意的に解釈すれば、まあ、納得できなくはないんじゃないかな。あと終盤だけ妙に口の動きと音声がずれているの気になる。

《印象的なシーン》冒頭のジョキンジョキン。

 

 

ヤツアシ(2021年、日本、監督:横川寛人、12分)

 やりたいこと、試したい工夫がハッキリしていて好感がもてる映画。ジャケットの雰囲気から見てたぶん往年の特撮映画のパロディ的な側面もあるのだろうけど、そのへんはよくわからない。良くも悪くも単純明快で、それ以上でもそれ以下でもない感じ。

《印象的なシーン》高架道路をぬめぬめ動くタコ。

ヤツアシ

ヤツアシ

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*1:特に「駆除業者」が「知りすぎたから殺される」と訴えるあたり

*2:というか古代史をテーマにした映像作品で(地中海世界を例外として)キッチリ方陣を組んで戦っているのがちょっと不自然なんだと思う