ヒトたちがいる風景。
明朗快活なアルバム、という印象があるのは最初の三曲がそういうタイプだからかもしれない。地に足の着いた生活を描いた歌詞が多く、そういう意味ではヒューマニスティックなアルバムでもある。岡野昭仁さん*1の滑舌にフィットした刻むようなリズムをもった曲が多く、聴き心地ではポルノ随一のものがある。また、新藤晴一さん*2の歌詞に生活感がある曲が多いのもひとつの特徴かなと思う。
作詞作曲について、詩曲が一致しているのは10曲で、昭仁が6曲、晴一は4曲。不一致が3曲、インストが1曲。久しぶりにアルバムバージョンのシングル曲が収録されたアルバムでもある。
以下、収録曲の感想。
1.2012Spark (PANORAMA ver.) (作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasuku, Porno Graffitti)
シングル曲。アルバムバージョンとして収録されていて30秒弱のイントロが追加することで力強さが増していて、個人的にはこちらの方が好み。軽快な言葉のリズムが心地よく、やや崩した言葉のチョイスが気持ちいい。下記の歌詞は大げさでなく全て人間が胸に抱いてほしい一文。タイトルと歌詞に登場する〈2012〉がどうしても年代を感じさせてしまうかもしれないけど、奮い立たせる鼓舞の歌詞は普遍性があり老若男女問わず誰にでも刺さる強さがある。何歳になろうと、どんな立場になろうと、誰に対してであっても、自信満々にこう宣言できる自分でありたい。
音楽面:脳を左右に揺らすような二回目の〈LITTLE SPARK〉/より力強い一回目の〈戦いの合図だ〉/歌詞が始まる直前のステップみたいなギター/左から聴こえるストリングスと中央から聴こえるコーラスと右から聴こえるギターが殴り合うパート。
では誰のための時代か? 問うたなら
そんなもん 俺達の為なんだと
得意げな顔をして言い切ろう
2.メジャー(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:江口 亮, Porno Graffitti)
自分らしくあろう、という趣旨の歌詞だけど、「これからきっとうまくいくよ」みたいな楽観的なものではない。辛い目にも合うし藻掻いて苦しみもする。けれど、自分の中にある計測器だけは決して手放さないで、そして他人と比べた相対的な物差しではなく、自分の中にある過去の自分との対比という意味での絶対的な物差しで歩み続けてほしい……という歌詞。飴と鞭のバランスがいいというか、地に足がついているというか、そういうしなやかで泥臭い地力を是とする力強い歌詞が辛い明日に目覚めることへの恐怖をねじ伏せるための勇気をくれる。
音楽面:ガクッと段差のある〈eyes〉/加工が消える〈どうだい?〉/〈さっと〉直前にある一幕の終わりみたいな音(ギター?)/アウトロで披露される実質的なギターソロの高らかさ。
おせっかいな誰かが導きだした答えに
わざわざ自分の未来を合わせることはない
3.FLAG(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti)
直前の「メジャー」の兄弟曲のように感じるのは巻尺と旗という体育用具の枠で括れるものが題材になっているからだろう。素晴らしく聴き心地の良い曲で特にラストの単語の畳みかけは〈風林火山〉の異物感も相まって忘れがたい印象を残す。〈燦然〉〈颯爽〉の「サ」がなんだかたまらない。息苦しさから逃げないけれど言葉は崩してどこか気楽で前向き。昭仁のネガティブとポジティブが最良の形で融合した曲。
音楽面:〈燦然〉と〈颯爽〉のサ行の切れ味/終盤の単語の畳みかけの異常な店舗の良さ/鍔迫り合いのようなイントロのギター/徐々にボルテージが上がるギターソロ。
燦然とキミは頭上へと光り輝く旗をたなびかせ
颯爽と今を駆け抜ける使命を持っている
その旗に掲げるテーマは何だ? 愛か? 仁義か?
4.EXIT (作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一、ak.homma 編曲:ak.homma, Porno Graffitti)
シングル曲。口下手で上手く生きることができない男が思い浮かぶ。伝えたい感情は溢れているのに表す言葉が見つからず、喉に言葉が詰まって息ができない。雑踏の地下鉄と対比的な孤独な自分、そして〈ぼやける境界線〉から心象風景と現実が入り混じり回想と悔恨のなかで当てもなく彷徨う。失恋による茫然自失というシチュエーションをこうも詩的に表現できるのか。終盤に挿入された幸福な風景も却って痛々しい。
音楽面:諦念が滲み出る「ああ」/虚無感のような〈穏やかな午後〉直後の無音/〈狭い出口に〉と一緒に鳴っている楽器(キーボード?)/号泣しているようなギターソロ。
取り戻せたなら ただとりとめのない話に
柔らかな相づち 穏やかな午後
5.電光石火(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:江口 亮, Porno Graffitti)
直線的で不器用だけど打たれ強くて〈頑丈に出来てる〉やつ。前曲「EXIT」と不器用なところは共通しているのに行動的であるという一点でこれほど違う歌詞になる。穿った見方になるかもしれないけれど年月を経て立ち直った「EXIT」ともとれる。ちなみにおれはやっぱりこういう歌詞は昭仁の「ポルノグラフィティのフロントマン」としての自分の心情を仮託したものと捉えてしまう。〈キミ〉はおれたちだ。
音楽面:〈継続中〉の伸び/〈まだ見ぬ未来を〉の語尾の上がり方/左から、そして右から挟み撃ちしてくるイントロのギター/〈元通り〉直後のコミカルな音。
ジタバタとやってはいますけど他でもないキミに
オレの勇姿を見せつけたい 焼き付けたい 惚れさせたい
6.星球(作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:Tomi Yo, Porno Graffitti)
暖かくて優しい世界。忙しない日常からの、ほんのひと時の逃避。ガラスの靴を落とさずに家に戻ったシンデレラ。特別の一夜を描いているけれど、この曲の良いところは日常を否定していなところだと思う。日常を頑張って生きている〈あなた〉は素晴らしくて、だからこそ、この一瞬だけはそれを忘れて、格好も飲食物も音楽も場所も全てが特別な時間を過ごして、そして日常へと戻っていく。もしかしたらライブの本質なのかもしれない。
音楽面:〈コンビニ〉で「ん」が少し詰まっている感じ/〈クリスマスツリー〉の発音/たまに左右でちょっとずつ鳴っているギロロって音(アコースティックギター?)/アウトロでちょっとずつ音が抜けていく感じ。
穿きなれたデニムもいいけど コンビニもいいけど
たまにはうんとオシャレをした ドレスがネイルが It's so nice!
7.素敵すぎてしまった(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:馬場一嘉, Porno Graffitti)
頂点からの滑落。最高の瞬間があったからこその、落差としての失意。ぐるぐると頭の中をマイナスの感情だけが蠢いて、プラスの情報が入り込む余地はない。正式な表記にはないラストの英詩が救いようのなさを増幅させる。それなのにメロディも歌い方も全体的にどこか優し気な雰囲気があって、余計に胸が苦しくなる。比喩表現は冷厳で客観的なのに対して二種類のニュースの擬人化は感傷的でコミカルさすら感じさせる。晴一の技で脳が捩じ上げられる。
音楽面:〈過ぎたことは〉からの必死さ/〈やすらかな〉の「か」/イントロ冒頭の寂しそうなギターとストリングス(バイオリン?)/最後の〈あの夜が夢のように〉でそっと寄り添うギター。
失われていく様を 勤勉な監視官のように じっと見つめてる
急ぎも躊躇いもせず 割れたままの砂時計 時を宙に返す
ささやかなレクイエム
8.ワンモアタイム (作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:田中ユウスケ、近藤隆史, Porno Graffitti)
シングル曲。東日本大震災を受けての曲なだけにまっすぐで熱い。自分も貴方も前を向いて進もうと鼓舞してくれる。ちょっと古臭い表現になってしまうけれど「男が背負うべき責任」を描いている曲でもあると思う。自分一人だけなら諦めてしまってもいいかもしれないけれど、家族や部下のような自分が矢面に立ってでも守らなければならない存在ができたら、諦めるという選択肢がなくなる。そのしんどさと強さが昭仁特有の実直な比喩で表現されている。
音楽面:優しさが滲み出る〈優しさにぬくもりに〉/〈果てなき〉の「き」/ドラムの確かな高揚感/疾走するギターソロ。
こぼれた涙を拾って
未来の種へと注いで
あなたと花が咲くのを待とう どんな色だろう?
9.カシオペヤの後悔(作詞:岡野昭仁 作曲:新藤晴一 編曲:tasuku, Porno Graffitti)
後悔先に立たず。ほとんど自傷のような自虐の表現が強烈で映像的な直喩も秀逸。ストレートにとると無為徒食の輩としか思えないけど、ギリシア神話をそのままモチーフにしているらしい。長い時間をかけて変容してしまった自分自身は一朝一夕に改悛することはできず、歯止めが効かなくなった傲慢さが破局をもたらす。神話というマクロな世界を題材に現代人というミクロな自分自身を自戒する歌詞になっている。
音楽面:一瞬だけ虚しい〈虚しい〉/ラスト一行の謎の高揚感/適宜挿入される「チュチュッ」という音/長い時の流れを思わせる間奏パート。
虚しいカシオペヤの後悔 痛いくらい我が身貫く
灼熱のプライドが激しい豪雨に打たれたように冷たい
10.君は100%(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:ak.homma, Porno Graffitti)
シングル曲。実直にストレートにJ-POPをやっている楽曲。ファンの間でもやや賛否が分かれる傾向にあるけれど、たまにはこういう直球なファイトソングもいいのかもしれない。アップテンポな曲調は朗らかで楽しくて歌詞の内容とマッチしている。〈ボロボロと少しずつ削られて〉きた人には救いになるのだと思う。
音楽面:〈大きな帆を立て〉の抜群のリズム感/一人で歌う〈一人じゃない〉/〈照明をしてみるんだ〉後のストリングス/楽しそうなギターソロ。
「明日」っていつも真新しくて真っ白なキャンバス
11.Truly(作曲:新藤晴一 編曲:篤志, Porno Graffitti)
インスト曲。聞こえてきた音がそのままタイトルになったらしい。落ち着くようなテンション上がるような不思議な曲。「ゆきのいろ」の前奏曲のような雰囲気があって、もしかしたらアルバムの要の曲なのかもしれない。やっぱりポルノのインスト曲はいいなあ。
音楽面:0:55の回転のような音/平常心なギター。
12.ゆきのいろ(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:Tomi Yo, Porno Graffitti)
シングル曲。一人の人間の生活を絵画に喩えている。清廉潔白とはいえない生き方をしてきた。〈綺麗な色ばかりじゃない〉し描く将来像は〈殴り書き〉でしかない。そこに真っ白な色をした人が……〈君〉が現れて人生が、つまり絵画が変化していく。歌詞の対比が綺麗で〈暗い部屋〉⇔〈降り注ぐ光の中〉、〈指先を汚したまま突っ立てる〉⇔〈温めた掌〉と二人でいることによる変化が間接的に描かれている。素晴らしい。時間の流れが存在する晴一の詞のなかでも五指に入るほど感情は豊かで比喩の美しさが際立っている。最後に〈雪の色は何色だろう?〉と悩むけれど、迷う手つきがあまりにも幸せそうなのがたまらない。
音楽面:優しさが溢れる〈愛でるでもなく 飾るでもなく〉/〈交わるレイヤー〉のハイライト感/ギターソロ終わりのロングトーン/〈自分ではどうしようもない〉での静謐なピアノとストリングス。
雪の色は何色だろう?ただの白じゃ冷たくて
この街を覆う雪はどこか暖かく見える
13.はなむけ(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:Tomi Yo, Porno Graffitti)
アルコールと共に甦る青春の日々は、飲んでいるビールと同じく苦くて刺激的で痛々しくて、だからこそ手を出さずにはいられなくなる。アルコールに酔って、思い出に酔いしれる。ほらほら、いいから飲め飲め! ……独りで飲んでいるように見えるのは自問自答に終始していているからだろうか。終盤に「かんぱーい」と唱和が聴こえるけれど、いいタイミングで聞こえてきた無関係な隣の人々っぽく思えてしまう。〈俺〉が飲むしかねえんだな、これが。
音楽面:全体的な朗らかさ/酩酊でふらつく頭の中のような〈無い物ねだり〉からの散文/宴を思わせる賑やかなクラップ音/「よく言った!」と言いたげなギターソロ。
涙で流すには遥かで 笑うには誠実すぎた日々よ
14.メリーゴーラウンド(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:Porno Graffitti)
おなじところをぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる回り続ける日々に嫌気がさしてしまうのは老若男女だれでも同じなのだろう。遊園地の遊具の中でも牧歌的な空気のあるメリーゴーラウンドを題材に倦んだ日常をすぐにはそれとわからないほど楽しそうに歌い上げているのが印象的。もうしょうがねえから笑ってしまおう。〈ゆらゆらと旅に出よう〉という柔和な表現に救われるような気がする。
音楽面:家族に伝えるような〈贅沢は言わない〉/断言するような〈ゆらゆらと旅に出よう〉/イントロの一端立ち止まるような一瞬の無音/サッと添えられるギターソロ。
世界は広くて美しい ゆらゆらと旅に出よう
15.光のストーリー(作詞:岡野昭仁 作曲:岡野昭仁 編曲:ak.homma, Porno Graffitti)
すっげえエンディングっぽい。6分30秒と長めの尺も相まって、一本の映画をみたような気分になる。長大な物語の果てにある再会。おれはこういう「戻ってくる物語」に弱いんだ……。ゆっくりとしたテンポと昭仁の命を燃やすような歌い方もアルバムの締めくくりにふさわしい。
音楽面:読み聞かせているような優しい声色/〈胸の中に灯してるだけで〉の強靭さ/壮大な雰囲気/クライマックスを迎えるギターソロ。
永遠ってものはこの世界にはないようだ
それはこの上ない淡く厳しく儚い真実
――――
一応毎回書いておくけど、楽器については全くの無知(「変調」がどういう現象を指しているのかさっぱり理解できないレベル)だから頓珍漢なことを書いていたらごめんなさい。一応ブックレットの使用楽器のクレジットくらいは読んだけど知識と理解は別の問題だから……。ただ、だいたいどの辺のことを言っているのかは分かってもらえると思う。
アルバム全体で前後の二曲がセットになっている傾向がある気がする。「メジャー」と「FLAG」から始まり「EXIT」と「電光石火」、「星球」と「素敵すぎてしまった」、「カシオペアの後悔」と「君は100%」。関係性もそれぞれ共通項があったり対照的な歌詞だったり、と補完/対比の両面がある。
夢と現実を題材にした曲も多数あり、それに絡めて「自分ではない誰かのためなら頑張れる」という描写も多い。個人的にはやや似通った曲が多い印象があるけれどアルバム全体に漂うテーマ性がそうさせているのだと思う。
そういう意味でこのアルバムで重要なのは「2012Spark」なのかもしれない。自分一人だけならどうしようもないけれど、一人だけ、たった一人だけ大切な人ができれば頑張れる。自分じゃない、他人のためなら……という一つの理想的な男性像が根底に流れている。こういう考え方/感じ方ってどうしても古臭いと、もしかしたら偏見とも捉えられて有害と断じられるかもしれない(たしかにそういう側面もあるのは否めない)けれど、それも一つの貴ばれるべき理想像……なんじゃないかな。

