電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

ポルノグラフィティ「比喩表現」10選

1.ジョバイロ(作詞:新藤晴一

 新藤晴一さん*1による比喩の百鬼夜行。敷き詰められた「演劇」「宇宙」「花」に関する言葉は今目の前にある恋への不安や閉塞感を強調する。多用される「広さ」を表す言葉と「隣にいる恋人」という狭さ、そして破綻の予感による息苦しさの対比は見事。場面ごとに切り離されて連続性が失われるはずなのに、全てが繋がっているように感じるのは描かれる世界観に統一感があるからなのだろう。〈篝火〉〈赤い蜥蜴〉〈燃え尽きる〉と、暑い夏の夜を想起させる。

銀の髪飾り 落としていったのは
この胸貫く刃の代わりか

ジョバイロ

ジョバイロ

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2.ビタースイート(作詞:新藤晴一

 冒頭の強烈な比喩表現が脳を揺さぶる。全体を覆う暗い雰囲気とそれを補強する寒色は、月だけが輝く静かな深夜を連想させる。一般的に「甘さ≒恋」を象徴するチョコレートで失恋の痛みを表現しているのが秀逸で、ほかの曲にもよく使われる「キャンバス」が使われているのも面白い。〈例の月光を受け継ぐ〉はあのときの憂鬱な感情がリフレインしているということかな。主観的で陰鬱な描写は岡野昭仁さん*2の作詞のようですらあるけど、決定的に違うのは切実さだと思う。良くも悪くも昭仁の作詞より切実さが低く、だからこそ辛い題材なのに聴きやすくなっている。

憂鬱を色にすれば あの夜 忍び込んでいた蒼い月光の様になるだろう

ビタースイート

ビタースイート

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3.カメレオン・レンズ(作詞:新藤晴一

 相互不理解を「色彩」「月夜」「硝子細工」に乗せて表現している……と思う。「カメレオン・レンズ」に限らないんだけど、晴一の比喩は「わかりそうで、わからなくて、けどなんとなくわかる」という絶妙な表現が多くて、その最たる例がこの曲だから、明確に「こういう意味の歌詞」とは断言できない。同時に別の方向を観ることができるカメレオンの瞳は、同じ位置にありながら別のものを見ていることを表しているのだろう。おれは晴一の歌詞で「君」が出てくると「過去の自分」と解釈しがちだけど、この歌ではさすがにそうは取れない……かなあ。

深紅のバラもワインも 色を失くし泣いてるの?
君がいるこの世界は こんなに鮮やかなのに

カメレオン・レンズ

カメレオン・レンズ

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4.A New Day(作詞:新藤晴一

 晴一得意の演劇≒映画を題材に人生を唄う歌詞のなかでも群を抜いて実直に前向きだけど、「絶対にできるよ」みたいな全肯定的な言葉ではなく「やってみなければわらない。自分の人生は自分で頑張れ。先のことなんか誰にもわからんぞ」という、客観的というかちょっとだけ突き放した感じというか、そういう言葉で鼓舞してくれる。歌詞の内容を含めて「THE  DAY」との定冠詞の違いが面白い。

君主演映画のシナリオライター
そんなに手を抜いた物語を描くようなら
クビにしてしまえ

A New Day

A New Day

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5.アニマロッサ(作詞:岡野昭仁

 晴一が暗喩を得意とするのと対照的に昭仁は直喩を使うことが多く、「アニマロッサ」はその中でも際立った出来栄えの作品だ。比較的直截で映像的なスピード感のある表現で男の泥臭さが描かれていて、特に決意の描写が印象的で、曲調も相まって顔をあげる勇気が出てくる。昭仁のポジティブ面の代表選手。ここで取り上げたから今回は取り上げなかったけど「Fade away」は昭仁のダークサイドの代表になる。

粉雪の結晶のように 美しい形のものなんて望まない
ましてや 締まりの悪い馴れ合うばかりのものなら もう無くていい
キリキリと張り詰めているピアノ線のように繋がることを望んでる

アニマロッサ

アニマロッサ

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6.一雫(作詞:新藤晴一

 長く活動を続けてきたからこその歌詞。おれたちみたいな盆暗には想像すらできない苦労と愉しさの中にいるからこその比喩表現。これはすべてのアーティストや作家たちに共通なのだろうけど、年齢を重ねれば重ねるほど非会社人であることに思うことが出てくるのだと思う。それをきっちり比喩と擬人化の技法でフィクションとして仕上げているのは見事の一言。〈時間は距離じゃない〉は、ただ長く続ければ先に進めるわけではないのだからただ漫然と続けるのではなく新しさにも挑戦し続けよう、という決意だと思う。

拙い言葉でも チープな音符でも
乾いた雑巾を絞った一雫

一雫

一雫

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7.瞳の奥をのぞかせて(作詞:新藤晴一

 全体を覆う流麗な表現とは対照的に破綻を予感させる不実な愛の描写。特に下で取り上げた一文は不実な愛の時間の比喩表現から現実的な行為を思わせる描写へと〈甘噛み〉を介してスムーズに移行させているのが素晴らしい。先の見えない愛への不安やあまりにうまく立ち回る相手への不満など、一方的な被害者ではないがゆえの視点者の絶妙な心理を描いている。

いけない時間は甘噛みのように 淡い赤色 消えない痕を残して

瞳の奥をのぞかせて

瞳の奥をのぞかせて

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8.ダイアリー 00/08/26(作詞:新藤晴一

 晴一にとっての夢の象徴としてのギターは、先に挙げた「一雫」にも共通する。音を奏でる〈guitar〉も歌詞を創り出す〈ペン〉も晴一にとって欠かせないもので、その二つを同じ線上で扱い、〈夢を描く〉と絵のイメージを付けたしている。晴一の歌詞の中では比較的フィクション係数が低い、それこそ半ば日記的な歌詞だ。

あいかわらずGuitarを離さずにいるんだよ。
それは夢を描くペンでもあったんだし、前からそうだし。

ダイアリー 00/08/26

ダイアリー 00/08/26

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9.ネオメロドラマティック(作詞:新藤晴一

 アップテンポなリズムに乗せて抽象的……というよりむしろシュールレアリスムの絵画のような表現が押し寄せてくる。おれなりの歌詞解釈はあるけど、たぶん衆目が一致する解釈は絶対に出てこないんじゃないかな。歌詞が深いとか浅いとかそういうことではない、この曲の最大の魅力だ。個人的には一つの世界観を比喩表現を交えて描いた、という意味では「ジョバイロ」よりも「ミステーロ」に近いと思う。

いつも感じている 寒く深い闇の
この場所がもう既に 街の胃袋の中

 

 

10.ギフト(作詞:新藤晴一

 才能についての比喩で、これ以上に優しく、そして前向きなものはない。英語の「gift」から贈り物の箱をイメージさせ、それを擬人化(自分の心を客観化?)して語りかけ、そして最後にギフトの「大きさや装飾」といった外見ばかりが気になっていたけど、まだ中身すら見ていなかったことに気づかされるという構成。素晴らしい。途中挿入される「挑戦」と「都会」のイメージは、どちらも「夢見る若者」にとってなじみ深い。抜きんでた表現は少ないかもしれないけど、全体を通してみるとポルノの歌詞の中でも卓越した比喩表現が使われた曲だと思う。

リボンもなくて色だって地味で みすぼらしいその箱が
なんか恥ずかしく後ろ手に隠していた

ギフト

ギフト

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*1:以下敬称略

*2:以下敬称略

アルフレッド・べスター『破壊された男』[めくるめく展開とハイテンポな文章がたまらない]

 なんとなくカロリーが高い小説が読みたくなって再読。

 べスターのほかの作品、例えば「ごきげん目盛り」なんかもそうだったと思うけど、短い言葉を連続させることで迫力を出してテンポを作るスタイルは素晴らしい。あとエスパー同士の会話をビジュアルイメージを絡めて描写しているところ、16章の集団カセクシス法の現実崩壊感もたまらない。ストーリー展開も早く、特に今作は警察と犯人の視点を自在に操って攻撃と防御を繰り返す感じがはらはらさせられる。

 むかし読んだときは無理筋な話だったなんて思った記憶があるけど全然そんなことはなかった*1。まあネットで説明が少なくて分かりにくいって言っている人がいたけど、それはたしかにそうかもしれない。SFの宿痾でもあるし。その辺は二週目だから余計に楽しめたということかな。ただ、書いた通り、SFなんか全然わからなくても純粋にクライムストーリーとして楽しめるんじゃないかな。

 ……それはそうとラストがちょっとなあ。おれが洗脳嫌いだからというのがあると思うけど……《破壊》は《極刑》よりずっと残酷じゃないかな。山形浩生さんの指摘*2でもあるけどおれも『1984年』と『幼年期の終わり』はやってることが同じことだと思う。ナチュラルにエスパーによる優生思想みたいなの出てくるし、結局彼らがやってるのもそういうことだよなあ。あとパウエルの最期の叫びはよくわからん。

 読み終わったあとに『分解された男』の方をちょっとつまみ読みしたけど本当に全然違う。訳された時代が違うし、いろいろな意味で伊藤典夫さんと比べるのはちょっと違うような気がする*3けど、やっぱりこっちのほうが圧倒的だ。

 

 

 

*1:ゼラズニイのときもそうだったけど、こういうパターンが多いのは成長なのか元が愚劣すぎただけなのか……

*2:でもそれは逆に人民を愛するビッグブラザーが、道に迷った子羊を巧妙に導いて正道に引き戻した慈愛の物語ともなる。SF の名作とされるクラーク『地球幼年期の終わり』は、まさにそういうお話だ。ビッグブラザーのかわりにオーバーロードを置けば、両者はかなり似たような話だ。片方は全体主義の悲劇だが、片方は人類進化のポジティブな話と思われているのに……(「大森望(とそれを敵視する人々)についてぼくが知っていた二、三のこと:1980 年代からの遺恨とは (v.1.3) 」8ページ)

*3:技量も違うかもしれないけど、かかっている時間が違いすぎるから比べるのはちょっと不公平な気がする

ポルノグラフィティ「離別の歌詞」10選

1.サボテン(作詞:新藤晴一

 詩的な表現で彩られたストレートな失恋の歌。どちらが悪いとかそういうことではなくて、もっと根本的な不一致(もしくは相互不理解)が描かれている。ほぼ一貫して降り続ける雨は〈心深く濡れてしまうだろ〉や〈溢れるくらい水をあげてる〉と水を介した心情表現に一役買っている。岡野昭仁さん*1の歌い方も相まってどこか希望が見えそうな最後の一文は「サボテンSonority」で否定されてしまっているのも物悲しい。

雨のにおい 冷たい風 不機嫌な雲
窓際の小さなサボテン
こんな日にでも君ときたら水をあげてる
溢れるくらい水をあげてる

サボテン

サボテン

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2.カルマの坂(作詞:新藤晴一

 童話のような世界を背景にやるせなく虚しい物語が紡がれる。幼かったころは金で買われた少女がどんな目に合うのかよくわかっていなくて、だからこそ大人になったいま聴くとより辛くなる。最後の一文の突き放し方が新藤晴一さん*2の作家性である客観視がよく表れている。ポルノグラフィティ史上最も共有した時間が少ない二人の別れだと思う。

「神様がいるとしたら、なぜ僕らだけ愛してくれないのか」

カルマの坂

カルマの坂

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3.Winding Road(作詞:岡野昭仁

 雨天の寒さと指の描写が印象的な曲。雨が降る水辺のほとりを一本の傘だけで歩く二人……なのに別れの場面、しかもそれが嫌いあった末の別れなのかすらハッキリとしない。少なくとも視点者はまだ相手が好きみたいだから、相手のほうから別れを告げられた……のかなあ。けど〈深く深く束ねた指〉なんて言ってるしなあ……と煮え切らない。晴一とは別のベクトルで抽象的で、これがネガティブに振り切れると「Fade away」になる。

もうすぐ冬がやってくる この指かじかむ前に
やっと今外せて良かった 冷たい風には負けそうだから
温もり残ったままなら終われそうで

Winding Road

Winding Road

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4.農夫と赤いスカーフ(作詞:新藤晴一

 最新曲*3の「ナンバー(仮)」にも通じる絵本的な世界観の歌詞で爽やかな別れの曲。ポルノの曲では比較的珍しく夢を追うひとを見送る立場の歌。改めて見直してみると歌詞中には〈彼のひと〉という言葉以上の情報はなく、もしかしたら恋人(もしくはそれに類する存在)ではなくて、姉や妹、もしくは単なる女友達なのかもしれない……なんて考えると案外解釈の幅は広いのかも。

都会から
届いた
赤いスカーフ
農夫と赤いスカーフ

農夫と赤いスカーフ

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5.横浜リリー(作詞:新藤晴一

 ファンの間でも解釈が分かれているみたいだけど、〈仁義なんて流行らない言葉〉なんて表現を使っているくらいだから、やっぱりそういうことだと思う。夢を持った臆病な男がどんな結末を迎えたか……後半の歌詞がただただ悲しい。「ルーシーに微熱」のような「嘘を許容する」歌詞が印象的だけど、「ルーシーに微熱」とは視点者の性質が真逆なのも興味深い。

ここに帰って来さえすればね また愛してあげるわ
仁義なんて流行らない言葉 海に投げ捨ててよ
横浜リリー

横浜リリー

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6.小説のように(作詞:岡野昭仁

 ポルノの失恋曲は全体的に「縋る男」が多いけど、特に昭仁はその傾向が強く「小説のように」はその中でも受け身な弱々しさについて比類がない。受動的で採っている題材が題材だけに線の細い文化系のハイティーンが浮かび上がる。「夕陽と星空と僕」もそうだけど、昭仁の失恋歌は「色や輪郭線」という絵画を連想させる言葉がよくつかわれている。一枚の絵か、もしくは淡い色彩の漫画のイメージがあるのかもしれない。

今流す涙にはそれと同じ結末が見えているんだろう

小説のように

小説のように

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7.冷たい手~3年8ヵ月~(作詞:岡野昭仁

 晴一と白玉雅己さんが作詞した「Search the best way」の陰に隠れがちだけど昭仁の作詞の中でも対比の表現が巧く使われていて、もっと注目されてしかるべき曲だと思う。〈冷たい手を握る〉〈汗ばんで乾かない〉〈軋んで熱を持ってしまった〉〈二人だけで温めたストーリー〉と温度や湿り気が状況と対比を作っていて、後半の〈君の匂い〉と五感に訴える表現には一貫性があり、頭を揺さぶる。比較的明るい曲調だからこそ慟哭のような後半の歌詞が胸を打つ。タイトルにもなっている〈冷たい手〉が死別を思わせるけど、どうだろう。

もしも僕の部屋に君の匂いが
残っているのならば返してあげるから
あんなに注ぎ込んだ愛の結末
救われないのならば溢れて還らないでいい

 

 

8.デッサン #1(作詞:新藤晴一

 デビュー前の昭仁の体験を基に晴一が作詞したらしい*4。清々しいほどのダウナーで投げやりで無責任、それなのに一丁前に痛みは感じる。ポルノでは珍しく諍いが克明に描写されていて、それだけに視点者の態度が痛々しく、哀しさや憂いはあまり感じられないけど、それだけに昭仁の真に迫った歌い方が際立つ。全体的に映像的な描写が多く、特に下で引用している歌詞は印象的。〈はじけて消えていった〉のは、たぶん雨粒だけではないのだろう。

空の高い所で生まれた雨粒が
僕の足元に落ちて、今はじけて消えていった。

デッサン#1

デッサン#1

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9.クリシェ(作詞:新藤晴一

 月並みな表現、という意味のタイトルの通り、非日常的な特別感のある言葉はほとんど使われていない。それなのにこんなに苦しく胸に迫る。〈熱〉〈音〉〈涙〉と形として残ることはないものに「愛」や「思い出」を重ねていて、それはきっと悲しみも同じなのだろう。〈悲しみが 降り続き 僕を飲み込む頃〉〈二人が出逢ったわけを じっと感じてる〉はきっとそういうことだ。時間の経過と後悔の表現も秀逸で〈ガードレール〉も〈太い鎖〉も世俗的なのに組み合わせるとこんなにも詩的になる。愛おしい人との別れを描いた晴一の歌詞の中でも頭一つ抜けた作品。

もし時を戻すことができて 胸にたくさんの花束を抱いて
あなたの前に立った姿を描く 幸せな眠り 訪れるように

クリシェ

クリシェ

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10.フラワー(作詞:新藤晴一

 絵本を思わせる世界観の曲。高い視点から、「花」に仮託して、大きな命の流れを唄っていて最期の瞬間に何を遺せるのか、「一人の生涯」という重いテーマを正面から描いている。終わりの描写も過剰に哀しくはなくどこか力強くて、雲間から光差す冬の晴れ空を思わせる。一個人ではない「離別」を描き切ったという意味ではポルノの一つの指標になった曲だと思う。一貫して三人称的で、そういう意味では同じような題材の「海月」と比較してみるのもおもしろいかもしれない。

ねぇ 君は寂しくはない? 雨やどりのバッタが言う
静けさと遠き雷鳴 笑ってるわけじゃないの

フラワー

フラワー

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*1:以下敬称略

*2:以下敬称略

*3:2022.02現在

*4:「君はぼくがパセリが嫌いなことくらしか知らないだろ」って……そりゃあギターも蹴られますわ

最近見た存在しない映画(2022年1月)

乙嫁語り(2018年、日本、監督:江間シャーリー、95分)

 ただでさえハイレベルな昨今の劇場版アニメ界の中でも群を抜いた作画レベルの高さ。これを広いスクリーンで見ることができるというだけで映画館に行く価値があった。人間や動物たちの動きもさることながら、刺繡の精密さ、そして衣類や絨毯などの布の質感、そして人口密度の低い広大な自然の風景、どれをとってもリアリティとフィクションの均衡がとれていている。もちろん、目玉は刺繍なわけだけど個人的に驚いたのは馬や羊、ヤギといった動物たちだ。かなりの回数見返したけど、おそらくほとんどがCGで処理されているはず。作画で表現するのも、もちろん難しいのだけどあれくらいアップになっても鑑賞に堪えられるリアルな質感のCGが作れているのは本当にすごいと思う。毛並み、動き、吐息の描写、そのすべてがハイレベル。少し感想をあさったら動物ものとして高く評価している有識者も多かった。

 ストーリーはほぼ原作通りで、おおよそ三巻の終わり*1くらいまで。もちろん、いくらかはカットされているけど目くじら立てるようなほどではない。いや、上映時間からすればかなりゆとりがある作りになっている。

 もし好評なら続きを作ってほしいなあ……*2

《印象的なシーン》「………嫁心ついたね」

 

 

色彩、豊かな日常(1949年、日本、監督:青野琥珀、71分)

 これはすごい。モノクロ映画なのにはっきりと色彩が感じ取れる。もちろん、モノクロ映画でも色の濃淡というのがあるのだけど、この映画ほど色彩を感じ取れる映画も珍しいんじゃないかな。

 ただ、ストーリーはあってないようなものというか、単純明快すぎてちょっと退屈だったのが個人的にはちょっと残念だったけど、まあ、そんなストーリーを期待するほうが間違っているのかもしれない。けど、それにしても、なんというか起承転結もなく、かといって日常を描いているわけでもなく……うーん、どう言い表して良いかわからない。ただつまらない映画ではなかったのは確かだった。

 こういう映画を観るとちょっと映画史にも興味が出てくる。技術的にはどのくらい先進的だったんだろう。ちょっと気になる。

《印象的なシーン》藍色の瞳と鈍色の指先。

 

 

夢野久作の「冗談に殺す」(1979年、日本、監督:土原直樹、64分)

 なかなか見ごたえのある映画で薄暗い雰囲気が夢野久作らしくてとても良かったけど、ちょっと残酷なシーンを強調しすぎというか……まさかと思うけど本物を使ってないよね? 軽く調べてもそんな悪評は見当たらなかったし、さすがにそんなわけはないだろうけど……。

 原作が短編小説ということもあって、そのままでは尺が足りなかったらしくそれなりにオリジナル描写があったけど、悪くはない……どころかかなり良い改変だったと思う。原作では終盤にしか登場しない老刑事(原作ではAだけど映画では赤沼という名前になっていた)がかなり序盤から登場し、物語の核心に絡んできたのは良改変だと思う。もちろん、そのせいで原作のニュアンスがかなり変わってるわけで、それを非難している人もそれなりにいたけど、個人的にはかなり満足のいく作品だった。

 本編への感想とはちょっと離れるけど、やっぱり77年に公開された「夢野久作の少女地獄」が好評だったことを受けて製作されたみたいで、同じように日活ロマンポルノから配給されている。どうりで原作にないセクシャルなシーンがふんだんに盛り込まれているわけだなあ*3

《印象的なシーン》ラストシーンの迫真の表情。

 

 

時は貨幣なり(2017年、日本、監督:真崎有智夫、77分)

 なかなか面白い発想の映画だったけど、その理屈はちょっと変なんじゃないかな。経済学はちょっとかじっただけだから具体的な批判はできないけど、なんだかおかしい気がする。クレジットを観たけど監修に経済学者やエコノミストのような有識者が入っていなかったのも気になる。かるく感想を漁ってみたら理論的に突っ込みどころも多いらしくかなり評判が悪かった。まあ、けどその辺に目をつむれば面白い映画だった。繰り返しになるけど、発想はかなり面白いし。もし類似の作品が出るのなら次はキチンと監修を付けて作ってみてもらいたい。

《印象的なシーン》マルクス主義者(?)とケインズ主義者(?)の罵りあい。

*1:いや、区切りがいいから仕方ないけどあのエピソードで締めるのはちょっと暗すぎるのでは……

*2:と、思ってたら続編の「乙嫁語りⅡ 爭いと報い(仮題)」の製作が決定したとのこと!

*3:あとで知ったけど日活ロマンポルノは10分に一度性的なシーンを入れればどんな映画を作っても良いという自由なのか不自由なのかよくわからない独特の制限があったらしい

山野浩一『いかに終わるか: 山野浩一発掘小説集』[単なる落ち葉拾いに終わらない作品群。傑作につながるモチーフ、不条理そのもの等]

 いやあ、楽しみにしていました。山野浩一*1は比較的寡作で傑作選が二冊*2と長編が一冊、連作集が一冊しかない。そこにきて本作が主に「単行本等に未収録だった短編」を収集して一冊にまとめてくれた。まだ見知らぬ山野浩一がこんなに読めるんだ! もちろん、専業作家よりは数が少ないけれど未読の作品がまだこんなにあったと、ただそれだけでこんなにうれしい。

 全体的に『傑作選』に比べてSF色が強い作品が多かったと思う。宇宙船や人類の破綻と破滅、地獄のSF的な解釈など。もちろん、そこは山野浩一で一筋縄ではいかないわけだけど、そういう意味ではむしろ山野作品に触れてこなかった人(ある程度SFが好きだけど山野浩一を読んだことがなかった人)にこそお勧めできる作品だと思う。解説にもあったけど、本書から『傑作選』へ進むのがむしろ正道なんじゃないかな。

 モチーフとしては「電車」や「学生運動≒ゲリラ」「野鳥」のような『傑作選』の作品にも共通するものが多数登場しているところも興味深い。習作的な側面があったのかなあ。あと「グッドモーニング!」に出てくるボートなんかは筒井康隆脱走と追跡のサンバ』を思い起こさせるけど、どうなんだろう。不条理的な悲喜劇という意味でも共通している気がするけど、やっぱりぜんぜん関係ないただの偶然なのかも。

 ベストはちょっと迷うけど「宇宙を飛んでいる」かな。軽く感想をあさってみると「死滅世代」や「都市は滅亡せず」がベストに挙げられていて、たしかにこの辺の作品に哲学的な深みだったり思索や批判性では劣っているのかもしれないけど、この作品が一番「不条理」そのものを描いていて、その短さも相まって、とても純度の高い作品に仕上がっていると思う。そういう意味では「嫌悪の公式」も捨てがたいけど、「宇宙を飛んでいる」の時間感覚の喪失や閉塞感が好みなのでこっちを選んだ。

収録作

《「死滅世代」と一九七〇年代の単行本未収録作》
「死滅世代」
「都市は滅亡せず」
「自殺の翌日」
「数学SF 夢は全くひらかない」
「丘の上の白い大きな家」
「グッドモーニング!」
「宇宙を飛んでいる」
「子供の頃ぼくは狼をみていた」
廃線
《一九六〇年代の単行本未収録作》
ブルートレイン
「麦畑のみえるハイウェイ」
「ギターと宇宙船」
「箱の中のX」
「X塔」
「同窓会X」
《21世紀の画家M・C・エッシャーのふしぎ世界》
「階段の檻」
「端のない河」
「鳩に飼われた日」
「箱の訪問者」
「船室での進化論の実験」
「不毛の恋」
「氷のビルディング」
「戦場からの電話」
「永久運動期間は存在せず」
ヘミングウェイ的でない老人と海
「鳥を釣る熊さん」
「鳥を保護しましょう」
「確率の世界」
「二重分裂複合」
「無限百貨店」
「快い結晶体」
「石の沈黙」
「機械動物園」
「私自身の本」
「廊下は静かに」
《未発表小説、および「地獄八景」》
「嫌悪の公式」
「地獄八景」

 

 

ーーーー

 本筋からは外れるけどいままで山野浩一作品からSFへの批判性を感じ取ったことがなくて(ここでも書いたけど漠然とした不安感や現実-非現実、不条理小説として読んでいた)解説を読んで初めて批判的な側面に気づくことができた。おれにはその批判が正しいかはわからないけど、人によって着眼点ってぜんぜん違うという意味では面白い体験だった。

 解説で大和田さんもちょっと困惑しているみたいだけど、遺作となった「地獄八景」がこれまでの山野浩一からするとかなり異色作で、適切な例えかはわからないけど「ヘレディタリー」を観ていると思ったら「カルト」だった、みたいな。決して「カルト」が「ヘレディタリー」に劣るわけではないけど、同じ儀式を絡めたホラー映画でも真逆の作品なわけで、ちょっと面食らうよなあ。

 

 

*1:故人は敬意をこめて呼び捨てにしています。以下すべて同じ

*2:絶版の短編集四冊分がほぼ重複

最近見た映画(2022年1月)

コマンドー(1985年、アメリカ、監督:マーク・L・レスター、90分)

 筋肉シュワちゃん銃声爆発アクション爽快感MAX娯楽映画。

 もちろん有名作品だから*1出てくる名台詞(?)とかおおよその展開とかは知っていたけど通してみたことはなかった。かなり前から観たいと思っていたんだけど……というのも、やっぱりこの作品は吹き替えで観くて、なのに各種レンタルでは字幕しかないし、なら購入するかと思ったら吹き替えがついているのは特装豪華版みたいな感じのやつしかなかった。貧乏人のおれにはちょっと敷居高すぎる。けど気になるなあ……うーん……と思ってたら吹き替えが収録された廉価版を見つけたので購入し、ようやく観ることができた。

 内容は一段の表現がすべて。それ以上ではありえないけど、絶対にそれ以下ではない。想像していたものが想像通りに出てくる。娯楽の原点、なんて表現は大げさだけど、そのくらい楽しい映画。そりゃあ、本国でも日本でも人気が出るよなあ。

《印象的なシーン》「容疑者は男性、190cm、髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ」

 

 

カルト(2013年、日本、監督:白石晃士、84分)

 思ってたのと違うけど、これはこれでとても面白いけど、それはそうとしてその最後はどうなの。

 いわゆる正統派のホラー作品ではないけど、それを序盤できっちり教えてくれるのはありがたい。さすがに霊能力者があのビジュアルで出てきてしかもちゃんとした霊能力者と分かった時点で正統派ホラーと思う人はいないはずだ。

 モキュメンタリーみたいな感じで始まり、徐々に事態がエスカレート、そして解決へと向かうかと思いきや意外な展開に……と、娯楽としてはとてもレベルが高くて第一印象はちょっと悪かったけど、視聴をやめなくて良かったなあ、と思えるくらいにはいい作品だった。もちろんCGはハイレベルとはいえず、すごく迫力があるわけではないけど、その辺は副次的というか、たぶん制作的にもそんなに力を入れているところではないと思う。細かい前振りも効いているし、ちょっとフィクション係数高めだけど、そうとわかれば自分の中のフィクション度*2を調整するだけのこと。

 というわけで面白かったけど、もっとこう……最後はもうちょっと決着というか、もしそれが不可能ならすぐに直接の続編を作るとかしてほしかったなあ。特にネオはキャラが立っていただけに後半からの出番だけなんてちょっともったいない。

 感想を見に行ったらオカルトマニアの間では呪術的な設定が凝っていて評価が高いらしい。なるほど、そういう見方もあるのかあ。

《印象的なシーン》初登場シーンで机に座っているネオ。

 

 

道化死てるぜ!(2012年、アイルランド、監督:コナー・マクマーン、86分)

 すげえタイトル。もうこれだけで面白い。

 内容は単純明快B級スプラッタホラー。職業道化師が復讐に蘇るのだけど、この道化師も復讐される側の子供たちも絶妙に感情移入できないというか、完全無欠の被害者というわけではない(道化師もあれは事故だったわけで、しかも相手は幼少の子供だったのだから恨むのはちょっと違う気がする)から、だれが惨殺されてもそんなに悲しい気持ちにもならずに、創意工夫に満ちた道化師殺人術を楽しむことができる。ゴア描写もレベルが高く、これもキチンとオーダー通りの料理が出てくるタイプの映画。

 ただ、変なところにぼかしをいれるのはどうなんだろう。最初はブラックジョークというかそういう意味でぼかしているのかと思ってたけど、どうやってもそう解釈できない中盤にまた変なぼかしが入っててちょっと興ざめした。あと終盤の謎の道化師行動縛りは一体なんだったんだ? 最初は藤田和日郎からくりサーカス』の自動人形たちに課せられた縛りと同じ奴だと思ったけど、別にそういうわけではなかった。……まあ、ちょっとしたコメディシーンで特に意味はなかったのかな。

《印象的なシーン》バルーンのように膨らんで破裂する頭。

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銀河ヒッチハイクガイド(2005年、イギリス、監督:ガース・ジェニングス、109分)

 原作が好きで、あの軽妙洒脱なユーモアをどう映像化したのかなと期待しながら視聴。

 おおよそ原作通りだったような気がするけど、映画はちょっと事態の進行がわかりにくかった気がする。ただ原作よりフォードがいいやつっぽくなってたのは個人的に好きで、ヴォゴン人のビジュアルもイメージ通りだった。気に入っているのは序盤のハイウェイ建設の下り。ちょっと似たようなことを体験しただけに余計に笑ってしまった。まあ、それも行政が悪いわけじゃない(ちゃんと法律に則っている)けど、もうちょっと告知の方法とか周知の努力をさあ……。

 ナレーションもいい。石黒版『銀河英雄伝説』もそうだけど、物語作品にあったナレーションは緊張感やユーモアを醸し出してくれる。

 SF者からはあまり評判がよくない映画だけど、原作のシニカルなユーモアはキチンと理解して作られているし、その辺が楽しみたい自分にはとてもあっていた。キャラクターの描写も好印象で、特にマーヴィンは良かったなあ。……身近には絶対にいてほしくないけど。

《印象的なシーン》42。

 

*1:主にネットで

*2:島本和彦吼えろペン 四集』小学館、2002年、P16

ロジャー・ゼラズニイ『地獄のハイウェイ』[単純明快な娯楽作品。やっぱりロードノベルが好き]

 最近、比較的文学よりの小説だったり内宇宙に潜ったりスペキュレイティブなフィクションだったりする作品ばかり読んでいて、もちろんそういう作品が好きなんだけど、さすがにちょっと疲れてきた。もうちょっと気楽に読める単純明快な小説が読みたくいなあ……ということならこれでしょう、ということで再読。

 昔はゼラズニイらしい華麗な文体による濃厚な描写とは無縁な小説だな、なんて思ったけど、改めて読んでみると例えばP94-98の描写は流石だし、終盤の疲労困憊で目的地にたどり着くシーンも素晴らしい。わりと会話文が主体で読みやすいけど、そういう地の文の描写が効いていて軽すぎず重すぎない良い作品になっている。

 ただ、P248-252のブラディのシーンはよくわからない。天国(地獄?)の比喩表現とか? もしくはもっとイメージ先行の深い意味のないシーンなのかも。個人的にはソルトレーク大統領に打って変わって丁寧な態度をとるシーンが好き。悪い奴がある程度礼儀をわきまえた態度をとれるって設定は(頭が良くて、切り替えられるってニュアンスで)好きだ。あと全編を通してわりと子供には優しいところも、そりゃあ藤田和日郎先生も気に入るはずだ。

 

 

 

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 やっぱりロードノベルっていいなあ。ロードノベル/ロードムービーが好きなのはたぶんガンダムのせいだろうから、集団で旅をするほうが好きだけど、こういう一人(多くて三人まで)の旅も好きなんだなあ。手を出そうかずっと悩んでたけどケルアック『オン・ザ・ロード』も好きなんじゃないかなと思っている。手を出すべきだよなあ、ポルノグラフィティの曲のタイトルにも取り上げられているしなあ……。