電羊倉庫

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湊かなえ『往復書簡』[徐々に明かされる情報とオチの謎解きが気持ち良い短編集]

 全編が手紙のやり取りで構成された連作短編集。作品ごとに主要キャラクターは入れ替わるけど、登場人物や赴任先の国など、小さなつながりがある。ただ、それも直接関連しているわけではなく、世界観を共有しているという程度。

 彼らはそれぞれの過去に起きた「ある事件」について手紙でやりとりをして、その中で徐々に事件の真相や登場人物の意外な一面が明らかになっていく。立場や性格によって人物への評価が大きく異なること、そして同じ出来事を経験していたはずなのに、それさえ違う印象をもってしまうことがある。主観の曖昧さ、人や物事の多面性がテーマの作品。

 書簡形式のミステリで期待されることって「藪の中」的な証言の食い違いや、代筆偽作みたいなトリックだと思うけど、その期待に応えられる連作短編集だと思う。

 ちなみに四作目の「一年後の連絡網」は7P程度のショートショート。一通目の亮介から手紙で二作目に登場した梨恵が国際ボランティア隊でT国に赴任していることが明かされ、二通目の雅晴からの返信で、三作目に登場した万里子が恋人の純一に会いに行っていたことが明かされる。三作目のフォロー(読みようによっては最後のシーンが本当に幻覚に見えるから?)と、二作目と三作目を繋げて、連作全体が同じ世界で起きたことを強調している。文庫版から追加されたらしくて、ハードカバーからの読者へのサービスに近いのかな。

 初読のとき意外に思ったのを覚えている。嫌ミスの女王っていうのが湊かなえ先生の世間一般のイメージだろうし、おれも『告白』くらいしか読んでなかったからかなり警戒して読み始めたけど、『告白』で見られた後味の悪さや底意地の悪さはかなり薄く、比較的穏当でドロドロしてもいなかった。どの短編も最後の一通に意味を持たせているのが良かった。全体のテーマは人間や事件の多面性だけど、「あの日の事件」の性質や役割が三作三様で面白い。

 実質三作しかないしどれも面白かったから、ベストを選ぶのは難しいけど、やっぱり「二十年後の宿題」かな。やっぱりこのくらいのハッピーエンドのほうが好き。

収録作

「十年後の卒業文集」
「二十年後の宿題」
「十五年後の補習」
「一年後の連絡網」