電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

防犯の論理/倫理を知りたい

 ちょっと前の話だけど「Panasonic Melodious Library」でレイ・ブラッドベリ「霧笛」が紹介されていたとFMリスナーの母から伝え聞いた。「Panasonic Melodious Library」は小川洋子先生が古今東西の本を紹介するという読書好きが手を叩いて喜びそうなラジオ番組なんだけど、おれはほとんど聴いたことがない。一応断っておくと小川先生が嫌いとかとういうことじゃない。というのも『ブレードランナー 2049』が公開されていたころにフィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を紹介していて、その感想がおれの理解とかなり乖離していて*1、聴く気がしなくなってしまった。いま思えば自分と違う感性の感想、それも現役作家の理解を摂取するまたとない機会なのだから、少なくとも自分が読んだことある作品の回くらいは聴くべきだと反省している。「霧笛」の回のことを母から伝え聞いたのもradikoアーカイブ配信が終了したあとで、結局その回は聴けなかった。

 けど、「霧笛」は読み返した。

 同類の仲間を失った太古の恐竜が年に一度、灯台を仲間と思い込んで目覚めて哀しい鳴き声を発する、という壮大な時間の流れを感じさせる美しくも哀しい物語。けっこういろいろなところでパロディになっていたり、おれの記憶が正しければ一時期ネットでコピペとして出回っていた。それくらい良く出来た簡明な短編作品だ。

 で、ブラッドベリの短編を読んでいてまた思い出す。そういえば萩尾望都先生がブラッドベリの短編を題材に短編集を作っていたなあ。そうそう『ウは宇宙船のウ』だ。せっかくだし、そっちも読んでみたいなあ。

 とりあえず検索してみたけど単行本も文庫版も少なくとも九州管内の本屋はどこも欠品状態で新品での入手は難しいらしい。Amazon等では売っていたけど、なんとなく実店舗で手に入れたくなった。ということでかなり久しぶりにブックオフ巡りをやった。

 居住県はもちろん、隣県くらいまで足を延ばしてみたけど見つからない。ブックオフ以外にも漫画を売っているタイプの古本屋にはかたっぱしから行ってみたけど見つからない。副産物として新品では入手できない本がいくつか手に入ったけど、当初の目的の品は入手できず終いになってしまった。そうこうしているうちに熱も冷めてきて最終手段として考えていたAmazonでの購入にも動かず諦めた。

 で、ブックオフをめぐっていた時のこと。ブックオフに限らず本を取り扱う店はたいていレーベルごとに棚を作っているわけで、そうなると当然少女漫画は一つの通路の向かい合わせの本棚に纏められている。ブックオフの店頭に在庫検索はなくて、ネットの検索も書籍類は機能していないみたいだから現地で確認するほかない。

 女性向けの商品が並ぶ場所は居心地が悪い。とにかくほかに客がいない時を見計らって急いで探して回った。李下に冠を正さず、じゃないけど疑われるような行動は取らないほうがいい。もちろん、男性が少女漫画を読んではいけないということはないし、ましてや売り場にいるだけで罪になるなんてことはない。けれど、どうしても本来の客層に警戒心を抱かせてしまうだろうし、実際に少女漫画のコーナーで卑劣な犯罪行為に走る輩が存在するのも事実だ。おれはそんなことはしないけど、そんなの他人からは分かりっこない。

 おれの行動は自主的なもので特段店舗に禁止されているわけではない。けど、例えばゲームセンターのプリクラコーナーも男性の一人客はお断りされていると聞いたことがある。ほかにも職質されやすかったり、ただ公園で休んでいるだけで子連れの女性から白い目で見られるのも中年以上の男性であることが多い。差別といえばたしかに差別だけど、これは確率の問題だ。そして、ある程度受容せざるを得ないのは防犯というものがまだ何もしていない人を疑って犯罪の発生を未然に防ごうとすることだからだ。

 警察というのは本質的に手おくれなのだ、という台詞の出元は『攻殻機動隊』だったか『パトレイバー』だったかちょっと忘れてしまったけど、かなり真実に近い言葉だと思う。ことが起きてしまってから捜査しても、被害者が受けた損失を本当の意味で回復することはできない。起きてしまったことを処理することはもちろん重要だけど、同じくらいに事件が起きないように防ぐことも重要ではある。

 疑わしきを罰することは許されない。けれど疑わしきを疑うことはある程度の範囲で許されている。防犯の本質はそいうことだからだ。けど、それも行き過ぎれば差別になるし理不尽に自由を奪うことでもある。疑わしきを疑うというのは予断と偏見をもって事に当たるということでもある。これはもう防犯というものがそういうものだからと納得するしかない。問題はその余談と偏見をどこまで許すかということだ。どこからどこまでを許して、なにを許さないのか。理論的な根拠というか、もっと理知的な線引きが存在してもいいんじゃないかなと思っている。

 ということで、そういうことを体系的に論じた本があったら教えてほしい。できれば新書くらいの入門書とかがあると本当に助かるのだけど……。

*1:「恐ろしいデッカードに対してイシドアはとても心優しい。そして人間たちよりアンドロイドのほうがよっぽど人間らしい」みたいな感想だった。長くなるから詳しくは書かないけど、イシドアはある種の愚かさの象徴だしアンドロイドたちがどれほど落ち着いているように見えても、彼らが「感情移入能力」に欠けた(そしてそれを理解できない)存在であることは明らかだ。