電羊倉庫

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最近見た映画(2024年5月)

 コナン祭り第一弾。

 原作の『名探偵コナン』は大学生の頃にロンドンに行った辺り(いま調べたら72巻だった)までは読んでいて、そのあとの展開はたまにテレビアニメを観たりX(当時はTwitter)で話題になっていたからなんとなくは知っていた。テレビアニメを追いかけるのはちょっと時間が足りなさすぎるけど劇場版なら……なんとなく気になってはいたからこれを機会に通して観ようかなと視聴を始めた。

 劇場版も何作かは金曜ロードショーとかで観ていて断片的に覚えていたりもするけど、全編ちゃんと覚えるほどキチンと観た作品はない。一作目の『時計じかけの摩天楼』はここで書いているので省略。今月はとりあえず10作目『探偵たちの鎮魂歌』まで。

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14番目の標的ターゲット(1998年、日本、監督:こだま兼嗣、99分)

 前作から引き続き登場人物は割と少なくてお祭り度はかなり低めだけど、そのぶん新一と蘭(と相似形としての毛利夫妻)の物語としてまとまっている。海中アクションがかなり良いし爆発も多くてとても楽しい。終盤の水難や建物崩壊の危機の連続は圧巻。ラブコメ要素もあり、小五郎もカッコ良くて各種理由付けもそこそこ上手。写真家のおっさん傲慢っぽいけど良いやつだなあ。「THE 劇場版 名探偵コナン」って感じ。

 ミステリ要素はかなりよくできてると思う。味覚障害の証明とかサラリと上手い。辻の侮辱は軽く見えるようで重くそのほかの動機を含めてかなり人間らしい犯行理由で同情の余地はありそうだけど殺害数と悪意(特にヘリの一件)がけっこう酷い。倫理観もいっしょに壊れちゃったんだろうなあ。

《印象的なシーン》銃を撃つコナン。

 

 

世紀末の魔術師(1999年、日本、監督:こだま兼嗣、100分)

 謎解き冒険アドベンチャー

 本筋である秘宝を巡る冒険とサブプロットの殺人事件(とキッドの真意)が並行して終盤に収束していく構成が気持ち良い。おどろおどろしい地下迷宮に潜っていき宝物を発見して隠されたメッセージを発見する……と冒険ものとして良く出来ている。ミステリとアクションのバランスが良い。炎の中対決するシーンがカッコ良い。無理なく舞台を変えて飽きない。この当時はロマノフ王朝の生き残りは時代のロマンみたいな感じだったらしいけど、現代の研究では否定されてたんじゃなかったっけ。

 あと、うまく言語化できないけど全般的に演技の感じがすごく良い。蘭が本気でコナン=新一を疑うシーンが挿入されていて、それがラスト(鳩の恩返し)につながるわけだけど、その近辺の演技が特に好き。

《印象的なシーン》「仕方ないよ。大変だったんだもん」

 

 

瞳の中の暗殺者(2000年、日本、監督:こだま兼嗣、100分)

 ミステリ濃度が高く、派手さはないけどその分リアリティがある。あまり詳しくないから断言はできないけど純粋にミステリとしてもよくできてるんじゃないかな。特に傘のトリックは現実で模倣犯がでたと聞いたことがある。誰が犯人なのか消去法で消せるのがだいぶ終盤で、黒タイツ状態の犯人の行動原理やそうでない状態での態度に整合性もとれている。ただ、おれがあまりミステリに触れてこなかったからだと思うけど、血縁と愛憎の人間関係が入り組んでいてやや混乱したところはある。

 最後に敬礼するの良いなあ。記憶喪失というギミックが蘭自身のキャラクター、そして周囲の人間の対応を通して彼らを魅力的にみせている。コナンの第一話を物語に組み込んでいて、これが劇場版最終作といわれても納得できる仕上がり。

《印象的なシーン》新一を連れてこいと言われて顔を背けるコナン。

 

 

天国へのカウントダウン(2001年、日本、監督:こだま兼嗣、100分)

 コナンのメインストーリー(黒の組織)が劇場版の物語に絡んでいるのは初かな。とても前振りが丁寧な作品で、複数回にわたる富士山の強調(特に電車で移動しているとき)は重要な伏線になっているほか、歩美のタイムウォッチと米粒の挿話は終盤の展開の前振りとなっている。とても丁寧な作劇はアクション面でのフィクション係数の高さをリアリティの方面でフォローしてくれている。映画らしく派手な画面も楽しくて、最終局面を子供たちだけで突破する(いや正確にはコナンと灰原は子供じゃないけど……)のは爽快感があり、まさに大団円で締めくくられる。

 本筋とは関係がないけど光彦と歩美が蘭に真剣に相談する場面がとても良い。蘭の低すぎず高すぎない視点は「そりゃあ子供に好かれる/信用されるだろうなあ」と納得させられる。

《印象的なシーン》「どうせ待ってても死んじまうんだ。やろうぜ?」

 

 

イカストリートの亡霊(2002年、日本、監督:こだま兼嗣、107分)

 SF要素強めな異色作。異色なのは設定だけじゃなくて(ゲーム空間とはいえ)主要キャラが死亡する/真犯人の命を損なう、コナンが諦めを口にすると少なくともこれまでのコナン作品ではタブーだったことが描写されている。ゲームを題材にしているのは前作を意識してのことかな、と思ったりしている。VR空間と現実で並行して事件の捜査が進む構成は前者が倒叙もので後者が正体を探る追跡劇と別種のものが用意されている。珍しく時事(……というか現代政治批判?)的な話題が入っているのも印象的。優作の本格的な名探偵ぶりをみれるのも嬉しい。

 親子関係や子供の成長がテーマで、その一つの象徴が「教育方針や本人の性格に多少難があっても自分の子供のことは真剣に想っている」というリタイアや生還時の描写だと思う。

 個人的にはかなり好きな作品。ただ、先述の時事もロンドン事情もゲーム内の推理も子供にはちょっと難しいんじゃないかなと思わなくもない。あと、正直コナンじゃなくても成立するというか、コナンらしくはないような気もする。

《印象的なシーン》「だめだ。もう打つ手がねえ」

 

 

迷宮の十字路クロスロード(2003年、日本、監督:こだま兼嗣、107分)

 服部と和葉のエピソードはかなり好きだけど、話の規模は小さくて途中の調査も京都観光紹介っぽさがありテレビスペシャル感は否めない。バイクのチェイスはアクションとしてはかなり楽しいけど、時代の制約があってCGがイマイチなのが残念。個人的にはコナン(新一)と服部の友人関係はかなり好きだからその辺の描写が濃ゆいのは嬉しかった。

 コナンが新一に戻るのは特別感があって嬉しい。というかもっと頻繁に戻っているイメージがあったけど本作が初めてだった。コナンが新一っぽいことを蘭に伝える際にイメージ画像として出てきたり、あとキッドの変装で出てきたりしているからそれと混同していたのかもしれない。

《印象的なシーン》「どうせ会われへんのや。知らん方がええ」

 

 

銀翼の奇術師マジシャン(2004年、日本、監督:山本泰一郎、107分)

 飛行機アクション映画。推理ショーの主体が英理と変化球なこと、犯人へのフォローを阿笠博士がやるのが印象的。推理パートはややコンパクトに纏まって後半の航空機サスペンスが見せ場になっている印象。キッドが目標にしていた宝石が本筋にあまり貢献してないのはやや残念だけどコナンとキッドが互いを信頼して同じ目標に向かって努力しているのはグッとくる。

 調べて知ったけどさすがにコックピットに民間人が入ったりするのはフィクションとはいえかなり問題がある行動らしく、わざわざ「この物語はフィクションです」と断りが入っていた。まあ万が一にでもマネするやつがいたら困るからねえ。監修が入っているだけあって管制塔とのやりとりは真に迫っていて素晴らしかった。

《印象的なシーン》キビキビと対応する管制塔

 

 

水平線上の陰謀ストラテジー(2005年、日本、監督:山本泰一郎、107分)

 空の次は船。

 倒叙もの……と思わせてと二段構えの構成はかなり良く出来ている。二方面で事件が同時進行するの良い。全体的に小五郎がかなり冴えてるのも良い。カッコイイ。地に足がついた格闘シーンも今までにない要素で引き込まれる。ちょっといくらなんでも一方的に殴られすぎだろとは思うけど女は殴らないという信念に妻に似ているという要素が重なって殴らずに一撃で決めれる機会を窺っていたということかな。最後の最後まで小五郎がカッコイイ。
 クルーザーによる追走劇は見応えがあり、主に少年探偵団たちのコミカルなシーンも笑えて楽しい。コナン君もうちょっと真面目にかくれんぼしようねえ。平穏無事とクライシスのバランスが良い。終盤につながる蘭の行動は流石にちょっと危機感が無さすぎるところはあるけど、気になるところはそこくらいかな。かなり好きな作品。

《印象的なシーン》船長の背後から現れる小五郎

 

 

探偵たちの鎮魂歌レクイエム(2006年、日本、監督:山本泰一郎、111分)

 オールスターお祭り映画。

 あんまりそういうゲームに触れてこなかったからイメージでしかないんだけどADVゲームっぽい。仲間が入れ替わりながら街を探索して情報を集め、途中でミニゲーム的なアクションを挟みつつ、事件の真相を解明してラスボスの元へ。始まりの設定はフィクション係数高めだけどお祭り映画としてはバッチリ。分業してるから仕方ないけど、コナンの名探偵感はやや控えめ。かなりの数のキャラクターが出てきてそれぞれに活躍の場があって良かった(特に終盤で子供たちのもとに集まってくる大人とかすごくよかった)けれど白馬だけは設定的にやや不遇だった。

 加害者関係者がそろって人格的に難のある人物ばかりで同情心がほとんど湧いてこない。特に黒幕が新一(コナン)に投げかけられた台詞は強烈で忘れがたいものがある。お祭り感は過去最高でとても楽しい。

《印象的なシーン》「バーカ、バーカ。無能な警察は消えろ」