電羊倉庫

嘘をつく練習と雑文・感想など。ウェブサイト(https://electricsheepsf.web.fc2.com/index.htm)※「創作」タグの記事は全てフィクションです。

最近見た映画(2022年8月)

夏への扉 -キミのいる未来へ-(2021年、日本、監督:三木孝浩、118分) 原作を予習して視聴。 思ったよりずっと面白かった。若干期待値が低かったからというのもあるけど、十分満足できる。特に冒頭で世界観(現実の世界とは違うパラレルワールド的な世界)…

ロバート・A・ハインライン『夏への扉』[ちょっとアレなところはあるけど楽しい小説]

初読では割と印象が薄くて、話の筋は三分の一くらい(P126くらいまで)しか覚えてなかった。ということで印象はあまりよくなかったけど、読み返してみると思っていたよりずっとおもしろかった。 少しずついろいろな情報を小出しにしていくストーリー構成や、…

フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』[娯楽色が強くすっきり楽しく読める短編集]

「トータル・リコール」(We Can Remember If You Wholesale)翻訳:深町眞理子 現実崩壊。旧題の「追憶売ります」のほうが洒落てるけど、やっぱり映画にはあやかっていかないとね。映画はリメイク版しか観ていないし記憶もちょっとあいまいだけど、かなり原…

ポルノグラフィティ12thアルバム『暁』感想

新藤晴一大博覧会、名優岡野昭仁七変化。聴きだしたらもうほとんど『スキャナーズ』。おれは壇上で頭を爆発させて、あとは二人が超能力バトルじゃい。 第一印象は「明るい」。もちろん重たいバラードや激しいロックもあるし、なんならそういう曲のほうが印象…

最近見た存在しない映画(2022年7月)

そばかすのフィギュア(1995年、日本、監督:菊池るみ、88分) この時代のアニメを観ているとなぜか懐かしくなってくる。どうしてなんだろう。年齢的にほとんど自我はなかったはずだけど、どこかで原体験になっているのかもしれない。 原作を読んでから観た…

最近見た映画(2022年7月)

ウィッカーマン(1973年、イギリス、監督:ロビン・ハーディ、100分) 『ミッドサマー』に影響を与えた映画ということで視聴。 思っていたよりずっと『ミッドサマー』だった、というか『ミッドサマー』が『ウィッカーマン』だった。大枠のストーリーは同じだ…

フィリップ・K・ディック『アジャストメント』[生涯のテーマからさらっと笑えるコメディまで]

「アジャストメント」(Adjustment Team)翻訳:浅倉久志 現実崩壊と上位存在。解説にもある通りいかにもディックらしい作品。世界の変化に気が付く場面(P35-39)の焦燥感は流石。ただ、その直後の電話ボックス直送のシーンはちょっと笑ってしまった。しが…

SFといえばフィリップ・K・ディック

男はバカだから「初恋の人」を生涯忘れられずに引き摺り続ける、と何かで読んだ記憶がある。これはたぶん真理で、そして「初恋の作家」にも同じことがいえる。少なくともおれはそうだ。 ディックを初めて読んだのは大学一年生のころだった。せっかく大学生に…

江面弘也『名馬を読む3』[バラエティ豊かな名馬たちと最新の顕彰馬キタサンブラック]

これでこのシリーズの既刊はすべて読破。構成は二作目とほとんど同じだけど、五章だけはキタサンブラック単体の小伝になっている。 一章ではカブラヤオーが印象的だった。菅原騎手がテスコガビーとカブラヤオーのどちらを選ぶか迷ったときに、茂木師が助言し…

江面弘也『名馬を読む2』[世家、列伝など。周縁事情、馬の関係性、時代、個性]

一作目から続いてこちらも読破。前作は時系列順に書かれていたけど、今作はそういうわけではない*1から、前作に比べると競馬史の流れを体験するという要素は薄い。ただ特に一章と三章は「時代の流れ」が重要な要素になっている個所もあって、日本競馬史の知…

最近見た存在しない映画(2022年6月)

命のネジを巻く旅人サバロ(1993年、日本、監督:江路村秋草、97分) アニメ化してるなんて知らなかった。こういう隠れた作品を見つけられるのもAmazonプライムのいいところですな。まあ、有料チャンネルに課金が必要で妙に高かったけど、草上仁先生の作品の…

最近見た映画(2022年6月)

ハードコア(2016年、ロシア/アメリカ、監督:イリヤ・ナイシュラー、96分) すごい。アイディアもそれを実現する技術力も、そして嘘をきちんと覆い隠す創意工夫も、非の打ち所がない。序盤からかなり飛ばした展開が続くけど、キチンと抜くところは抜いて緩…

ポルノグラフィティの色彩

※2024/04更新:52thシングル『解放区』までカウント。 色の表現が好きなので、ポルノグラフィティの歌詞で「色」に関する言葉がどれくらい使われているか調べてみた。 docs.google.com スプレッドシート(DL) 目視でカウントしたから間違いがあるかも。もし…

梶尾真治『美亜へ贈る真珠[新版]』[ほろ苦い恋物語にSFのエッセンス]

時間と愛についてのほろ苦いラブストーリー。 梶尾真治先生*1といえば多くの人は映画化された『黄泉がえり』を思い浮かべると思うけど、おれにとっては本作みたいな短編集のほうが印象深い*2。梶尾作品の二大ジャンルといえばラブロマンス系とドタバタコメデ…

生きていくためにとっても大切な薬物の話

今週のお題「本棚の中身」 移動装置を破壊した。これでもう戻れない。 ここは失われた過去の楽園。逃避行は完結した。タイムトラベルを巡る冒険は終わり、あとは生活が待っている。 ここへ至るまでの艱難辛苦は筆舌に尽くしがたい。ほとんど狂気じみた執念を…

最近見た存在しない映画(2022年5月)

李陵(2015年、台湾、監督:盧三造、115分) 日本で李陵といえば中島敦「李陵」が最も有名だろうけど、この映画は中島敦の小説は一切関係がない。というか、原題は「司馬太史令」で、メインは司馬遷のほうなんだけど、どういうわけか李陵が訳出されている。…

最近見た映画(2022年5月)

曲がれ!スプーン(2009年、日本、監督:本広克行、106分) 少し不思議なコメディ映画。物語が動き出すのがやや遅いし派手な結末もないけど、飽きることなく楽しく観ることができる、という不思議な映画。なんでだろうと思ったけど、たぶん会話のテンポ感だと…

湊かなえ『往復書簡』[徐々に明かされる情報とオチの謎解きが気持ち良い短編集]

※詳細版を作りました。 全編が手紙のやり取りで構成された連作短編集。作品ごとに主要キャラクターは入れ替わるけど、登場人物や赴任先の国など、小さなつながりがある。ただ、それも直接関連しているわけではなく、世界観を共有しているという程度。 彼らは…

最近見た存在しない映画(2022年4月)

美亜へ贈る真珠(2017年、日本、監督:梶渡司、96分) お気に入りの短編小説がついに映像化する、ということでとても楽しみにしていたおれの期待を裏切らない素晴らしい作品だった。短編を100分近くの映画にするにあたってそれなりに肉付けがなされているけ…

最近見た映画(2022年4月)

プラットフォーム(2019年、スペイン、監督:ガルダー・ガステル=ウルティア、94分) こういう閉塞的なシチュエーションの映画はかなり好み。階層社会や飽食、持続可能性がテーマとして提示されつつ、どこか宗教的な物語構造になっているのも面白い。ヨーロ…

野球のニュース見て漫画読み返してなんか落ち込んだ話

先日、佐々木朗希投手と白井一行球審のトラブルがニュースになっていた。いろいろ擁護も批判もあるみたいだけど、野球には詳しくないから具体的なことはよくわからない。礼儀とか権威とか純粋なルールとか人間が判定することの限界とかいろいろなことが議論…

ポルノグラフィティ「悲観と陰鬱」10選

1.音のない森(作詞:岡野昭仁) 岡野昭仁さん*1初の作詞作曲のシングルにしてドン底ネガティブ岡野昭仁心情吐露ソングの原点。人生を静まり返った暗い森に例えて、閉塞感や将来への不安を描いている。ミュージシャンが唄う〈音も無いこの深い森に怯えて〉と…

アルフレッド・べスター『イヴのいないアダム』[キレる名作短編とオムニバス式中編]

乾いた文体で会話文が多くてテンポが良く、全体的に初読の時と感想は変わらない。 圧巻の名作「ごきげん目盛り」はいつ読んでもどれだけ読んでも肌が泡立つ。この作品のためだけに購入する価値はあると思う。一人称形式の自我の混乱はおれが書きたかったもの…

ポルノグラフィティ「嘘と本当」10選

1.LiAR(作詞:新藤晴一) 名は体を表すポルノグラフィティの「嘘」の代表曲。鮮烈な色調が印象的で、花に関連する言葉と人工物を巧みに織り交ぜて「自然と人為」という対称的な比喩表現によって相互不理解や嘘を表現している。二人(?)がどういう関係性だ…

もっと評価されるべきポルノグラフィティの楽曲「青春花道」

「青春花道」(作詞:新藤晴一 作曲:新藤晴一 編曲:tasuku, Porno Graffitti) 青春花道(初回生産限定盤)(DVD付) アーティスト:ポルノグラフィティ SME Amazon いや、おっしゃりたいことはわかります。ダサいって言いたいんでしょう。そりゃあ、おれだって…

ハーラン・エリスン『死の鳥』[エリスンのベスト短編集]

エリスンを初めて読んだのは大学生のころで、もちろん『世界の中心で愛を叫んだけもの』だった。 世界の中心で愛を叫んだけもの (ハヤカワ文庫 SF エ 4-1) 作者:ハーラン・エリスン 早川書房 Amazon 強烈なタイトルはいろいろなところでパロディにされている…

完全初心者がマスターデュエルでプラチナtier1に上がった感想

プラチナtierⅠに上がった。 ……というより、上がってしまった。 たぶん、時期が良かったというのもあると思う。Twitterで話題になっている【DDダイナマイト】が先行取られて1ターンサレンダーをしてくれたのが二回はあったし、イベントが間近に迫っていたこと…

読書感想文と方程式

読書感想文と方程式って真逆のプロセスを踏んでいる。 学生の頃の苦手科目は数学、得意科目は国語だった。 幼少期の母の読み聞かせのおかげで読書好きの子供になっていたから文章を読んだり書いたりするのに苦労することはなかった。小学校の頃のテストはほ…

はじめての遊戯王

マスターデュエル、始めました。 遊戯王はほぼ直撃世代なのにまったく触れたことがなかったけど、別ゲーム経由で観始めたあまくだりさんの元ネタ(?)が遊戯王ということもあってちょっと興味はあった。基本無料なことだしせっかくだから触れてみようかな………

江面弘也『名馬を読む』[中国史書で言えば本紀。生涯戦績、繁殖成績、社会現象、特異な事績など]

基礎資料として評判が良さそうだったので購入。ここでも書いたけど、おれはウマ娘から競馬(競走馬)に興味を持った人間で、ネットで競走馬のエピソードを調べたりするのが最近の楽しみだったんだけど、某所で「興味を持ってくれるのはいいけど、できればち…